非常に興味深い本である。なにしろ「魚だって考える」のだ
これは,毎日のようにお昼休みに立ち読みしているリアル書店で見つけた。
この本の最大の特長は「既成概念に縛られず,自分たちで考え実験して,それなりの理論をたてる」実験科学を具現化していることである。
逆説的にいえば,巷の生態系や魚類学の本は「机上の空論」ばかり。実際にいくつか購入を見合わせるほどに「なんじゃこれは...
」という専門書もどきに出会った方が圧倒的に多いのだ。
著者である吉田将之先生が,やはり無類の魚類好きのようであり,そこに好感がもてる。著者紹介の写真を見た瞬間「これは,釣りキチの眼だ」なんて勝手に想像してしまったし。
科学的に客観視するには,むしろまったく関係のない学者が書いた方がよいともいえる一方,それはやはり無味乾燥である。少なくとも吉田先生のいう「トビハゼはカワイイ,実験飼育するならカワイイ方がいい」という魚類への愛情を感じることはできないだろう。感じることができないのは残念だと思う。
とくに僕に印象に残ったのは,キンギョのウキに対する「慣れ」である。赤いタマウキに最初は反応していて,しばらくすると反応しなくなる。しかし,青色に代えたら反応したという結果に「やっぱりそうか」と溜飲を下げる思いである。
バス釣りをやる人間ならわかる「ルアーを代えた途端に釣れだした」は,キンギョでさえもありうるのであり,比較的「好奇心旺盛」なサンフィッシュ科においてはもっと顕著であることも推察できる。
他にも非常に興味深い内容ばかりで,最近読書らしい読書をしていなかったが,この本は集中しすぎてあっというまに読み切った。スズキがなぜ河川を遡るのかという問いかけに対する答も実に当を得たものであり,これはまさに「実学による科学の見本」といってもよいだろう。
年齢的にも著者写真を見ても,僕はこの吉田先生にお会いしたい気持ちがどんどん膨らんできた。実際,この文章を書く前に感動のあまり吉田先生に御礼のメールを送ってしまったが,吉田先生からもご返事いただけて,著者と読者の交流が直接できたのである。吉田先生,本当にありがとうございます
。
大学院に行ってやりたいことは何と訊かれたら,僕は「魚の気持ちを知りたい」と答えるし,もう行き先は決まったようなものである。
人生長くないから,会社をやめて研究生活に4年間ぐらい浸ってみたいという「オズマの気持ち」は,果たして周囲に理解されるかどうかは課題であるが,いざとなったら,とは真面目に考えてしまうほどの本なのだ。
これから僕の口癖は「魚だって考える」に決まった,とある日のことであった。