数学を使ったマンガといえば『アルキメデスの大戦』だと思っていたら,さらにぶっとびマンガがあった。
『数学ゴールデン』である。
自分の体験にも,「頭のなかのゴチャゴチャがほぐれた」という思い出がある。
数学科1年生の5月頃,「ε-δ論法」(イプシロン-デルタ)というものが解説された。いわく「これがわからないと進級できないし,数学科にいる意味すらない」ということだった。
高校数学までの抽象度とはまったく次元が異なり,まさに異次元の世界
ノートを読み直しても想像ができない。解説書(岩波だったかの微分積分学の初歩)を買ってみてもさらにわからない。
これを落としたら落第決定とはキツイ。
幸い通学に片道2時間かかったので,それを利用しての「車内勉強」(語学予習レベルもやっていた)での理解は無理だった。
2週間ほど眠れない日々が続いた。思考実験の連続をしていた。
ある日,ひらめいた気がした。
そしてノートに書いてみる。オオオオ,なんかイケルかも,あってるかも
学校に行ってみる。友人に板書で「これで大丈夫」と聞いたら,天才系の子に「やったじゃん」と言われて,やっと手にした。
以降,異世界を知ることになる。
21世紀のマンガは「異世界転生」ばかりだが,数学こそ「異世界」の連続。しかも,大学数学レベルでさえ「紀元前」の話なのだ。なんということだろう。自分たちは偉人の「歴史の理解」ということなのか,と妙に納得した。
気がつけば,マイナス✕マイナスがプラスになるという証明に,3年間を要していた。あれは代数学の授業で,出席していた全員が「やったあぜ 俺たち,ついに追いついたのかも」なんて興奮状態になった。
そんな自分の経験を思い出す。僕の学力は「理解する」だけで手一杯だったが,この話はぶっ飛びである。
そして,単なるぶっ飛びでなく,ちゃんと「高校生活」を描いている。
重版が止まっているようだ。あらかた流通したのかもしれぬ。
それでもなお,マンガが「異世界転生」という「禁断の夢オチ」で終わらぬよう,発展に期待したい。