Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

尋常ならない拘りの音

2009-01-14 | マスメディア批評
週末に何気なく新聞に目をやっていたら友人の名前が目に入った。通常は詳しくは見ない新譜批評なのだが、見出しに興味あると目を泳がす。そこで見つけたのが渡辺克也君の名前で、ドイツで知りあった知人でその後も付き合いがある数少ない友人の一人である。今回の記事には、若い日本のオーボイストで90年代初頭から主にドイツの楽団で演奏していると紹介してある。しかし当時は更に若く小澤の新日フィルのオーボイストであったのが肩書きであった以上に学生上がりの風貌に玄人風が入り混じっていた。私などは相変わらず初対面からワイン祭りに誘っていたようだ。

日刊紙を定期購読しているお蔭で、今まで関係する何人もの知人友人に、何度も掲載されている情報を逸早く知らせることが出来て、通常ならば気が付かないようなあまり関係のない記事や紙面でも捲ることによって目に入ってくるというネット購読にはない利点と有り難さを感じている。

今回もベルリンへと早速電話連絡しようとしたが、生憎旅行中だったようで、それでも明くる日には内容を知らせる事が出来た。FAZの新譜紹介は紙面も少ないので、プロモーション活動してもなかなか扱われるのが難しいのは周知の事で、扱われる以上は好意的に紹介される。当然の事ながら、正式には発売レーベルの身売りした旧オーナーであるヘンスラー氏の独自のプロフィル・ヘンスラーのレーベルから、この成果は示されるだろうが、先ずはその内容を知らせた。

そこでは二枚のオーボエのCD新譜が紹介されていて、一つ目にソニー・ブレッテルスマンリリースのフランス人奏者フランソワ・ルルーによるモーツァルトの編曲集が批評されていて、それに続いて二つ目にオーボエの有史以来の長い歴史の中で「二十世紀」の楽曲への役立つ探求の成果として批評される。

プラハのシューマンの同時代人カリヴォダ作曲のタイトル「サロンのおつまみ」に関わらず表面的な名技性とはならない曲と、通称「オーボエのパガニーニ」ことパスクリ作曲のお馴染みの曲「シチリアの夕べ祈りのテーマ」における漸増する波へと突入する名人技が評価されている。その一方、英国の作曲家でフィギュアスケートで金メダルのミシェル・クワンが用いた曲「ライラ・アンジェリカ」でお馴染みの作曲家ウイリアム・オールウィンや音詩人デュテューユの特有の音色や音楽表現方法を旨くこなしていると褒める。

一枚目のルルー演奏CDのプログラムよりも遥かに表現力の幅が広いとされ、なによりもその渡辺の音色はデュテューユのソナタにおいても、その痩せて厳しく、また金切り声の道化をもまったく憚らないとしている。これは一般的にどんな音楽家にも通じる「音が良い」と言う最大の褒め言葉であるが、「特別に彫塑的な音色」とは渡辺君にとってはこれ以上にない批評だろう。

こうしたソリストとしてのレパートリーから、またそのキャリアーからも分かるように演奏家として因襲的そのものなのだが、この演奏家の殆ど進歩的とも言える音色や楽器への拘りは、先入観無くなかなか注意深く聴きこんでいるらしい該当批評文の見出しとして「隠喩」されている。それはオーボエの音を評した逸話として、ここでも登場しているシューバルト氏の言葉から導かれている:

「純粋なオーボエの音は人声の卓越に近づく」

そして、この新譜紹介の副見出しとして、「オーボエ奏者は、とても新しいものか、幾らか古いものを演奏して、ロマンティックなオリジナル曲を演奏するのはむしろ稀である」と「直喩」する。ここでは、二曲だけしかロマンティックな時代の曲を演奏していなくて、それどころか委嘱曲も無いこのプログラムで態々「二十世紀の曲」として英国人の作曲家の曲までを扱っている。それでは、オリジナルなロマンティックな曲とは一体どういう意味なのか?

それは、古代から更にギリシャのアウロスとしての前身をもつダブルリードの楽器ながら、19世紀にはクラリネットなどに追い遣られたオーボエの楽曲を、19世紀に発達して来た音楽受容消費の枠組みで今日21世紀に演奏する行為やそのプログラムをも暗示していて、ここで最近頻繁に扱うドイツェ・ロマンティックと表裏一体をなしているものと考えて良いだろう。

そしてそれが、尋常ならない音色への拘りのもとに為されているのに気がついて、この評者であるコールハース女史も関心をもってそれを面白いと思ったのだろう。まさにそうした彫塑の仕方こそが日本的な芸術感覚だと感じたに違いない。



参照:
Reiner Ton, sich der Menschenstimme nähernd: Oboisten spielen entweder etwas ganz Neues oder etwas Altes – eher selten: Originalkompositionen der Romantik, Ellen Kohlhaas, FAZ vom 13.1.09
2005年シラー・イヤーに寄せて [ 文学・思想 ] / 2005-01-17
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