今年は珍しく秋から初冬に試飲が続いている。通常ならばグランクリュの試飲が九月に終れば、それからクリスマスの買物までの間動きは少なくなるのだが、今年は2007年産に続いて売れ残りが多いのか醸造所の攻勢は続く。なによりもプレスの反応が出揃った所で、初冬のリストを送ってくる。
その中の一つであるフォルストのゲオルク・モスバッハー醸造所は、2007年のグランクリュや春のソーヴィニオンブランを購入していて、スタンダードのグーツリースリングは殆ど購入していなかった。2008年産特有の酸が不味かったからである。
先ずはピノブランからはじめた。酸が新鮮で心地よいワインであるが予想通り若干酵母の雰囲気がある。しかしこれで酵母臭いと言われればどうしようもない程度である。続いてバリック樽でスルリーで醸造してあるそれを試す。これは流石に木の匂いに気が付くが、酵母の感じと美味く合わせてあって若干クリーミーな高級感は上手である。その分価格も10ユーロであるから微妙な価格設定である。プレゼントには安いものを買ったが、予算さえあれば高いものでも一本ぐらいのご進物に間違いだろう。
さてリースリングは、御馴染みのグーツヴァインからはじめる。
「色合いは変わらないのだが、よくなったね」と評価すると、
「どんどん変わるから」。
「皮の苦味のような後味が、レモンのようで、ライムの様で心地よい。以前におかしな酸が感じられたのとは大分違うね」
そうなのである。実は以前に試飲したものとは、あとで調べると、樽も違っていた。このような難しい酸の年は熟成したものの方が美味い。そして次ぎはこれまたスタンダードなリースリング地所ヘアゴットザッカーからのキャビネットである。これもなかなか良かったが、奨められたハーネンビュールは同じ地所の最上部にある二重十字架の建っている区画である。
「あそこのは先日試食したよ。もちろん慎重に選んでだけどね」
「分かってますよ、いいんですよ。」
「フォンブールと並んでいるところだよね。今年の葡萄ははじめは甘かったけど段々とミネラル味の凝縮度が増してね」
それを飲んで納得が行った。
「これは典型的な石灰だよね。丸くなっていて、そして静かなリースリングだよね、もう少ししたら絶対面白いよ」
果実風味が炸裂するここのリースリングとしては、とても大人しく上品で繊細な方向へと深みを見せる。ここ数年のお婿さんの表情の陰影のようなものを見せる深みへの変化である。
「こうなったら直接シュペートレーゼを比べたいね」と要請して、それをのむと流石に味も濃いがクリーミーな変化も予想させる上級のグランクリュに繋がる良さを見せるのだ。
さて、そのグランクリュであるが、先ずはキーゼルベルクである。
「先日、2005年のこれを日本で飲んだと聞いてね。重かったらしいよ、まあ、元々重さがあるワインだけどね」と飲むと、これが意外に酸が強く効いているのである。分析票を見ると糖が4.2Gに対して9.3Gだから突出しているのである。その質は、今年のものに共通しているが刺激性は無く、臭みも無く、量感があっても浮ぶような軽みがある。2008年産リースリングは早く開いてはいたのだが、その酸がこうして熟れてくると嫌味が消えて、殆ど大気のように纏わる浮上感さえ感じるリースリングとなっている。
これには驚いた。何時の間にか弱点を埋める方向へと仕上げをしてきているお婿さんの腕と配慮を評価したい。流石に伸び代があると勝手に見込んでいるだけのことはある。悉く、我々が指摘する欠点を悉く克服して来ている腕は予想以上であり、お婿さんはきっと今後名前が出ると思うのだ。
そしてお待ちかねのフロインドシュトュックは、先のハーネンビュールと似ているのだ。今年は更に繊細に静かなリースリングが出来上がっている。
女の子は言う「今年のはまた私ごのみのになったの」
「なるほど、これは良いや。先日2007年産をシュタインピルツソースでやったら2004年産のクリーミーなものの方があったかなと思って、2007年産が一寸新鮮味が落ちたから、2008年産と比べたかったんだよね」と、料理にちぐはぐな選択しか出来なかったのを恥じる。
そして、ウンゲホイヤー。恐るべき進展。まさに何一つ恥じることのないグランクリュの域にはじめて達したと思った。もしかすると、この土壌に関しては、そのワインの格は違うとは言えフォン・ブールやビュルックリン・ヴォルフと比較出来るようになったかもしれない。流石に後者はまだそれを売り出していないのである。これも2002年グランクリュのように長めの樽熟成で独特な丸みと長寿を約束するリースリングになるのだろうか?それを見極めるには少なくとも五年以上は待たなければいけないが。兎に角、お婿さんのウンゲホイヤーは、重みは違うが一種の透明感で輝いていた嘗てのフォン・バッサーマンのシュペートレーゼに匹敵しているかも知れない。天晴れ ― そうこうしているとご本人が現われたので、いいよ!と一声掛けておいたがお疲れの顔である。樽と格闘しているのだろう。そんな顔をしていても確実に耳にしているいるのが、まるで花道を通る関取のような感じだ。
そのあとに試飲した売れ残りの2006年産シュペートブルグンダーとメルローを引っ掛けて、暗闇の地所をいい心もちで散歩したのはいうまでもない。
参照:
同じ過ちを繰り返す危険 2009-10-08 | アウトドーア・環境
隠されている解放への障壁 2009-07-20 | アウトドーア・環境
その中の一つであるフォルストのゲオルク・モスバッハー醸造所は、2007年のグランクリュや春のソーヴィニオンブランを購入していて、スタンダードのグーツリースリングは殆ど購入していなかった。2008年産特有の酸が不味かったからである。
先ずはピノブランからはじめた。酸が新鮮で心地よいワインであるが予想通り若干酵母の雰囲気がある。しかしこれで酵母臭いと言われればどうしようもない程度である。続いてバリック樽でスルリーで醸造してあるそれを試す。これは流石に木の匂いに気が付くが、酵母の感じと美味く合わせてあって若干クリーミーな高級感は上手である。その分価格も10ユーロであるから微妙な価格設定である。プレゼントには安いものを買ったが、予算さえあれば高いものでも一本ぐらいのご進物に間違いだろう。
さてリースリングは、御馴染みのグーツヴァインからはじめる。
「色合いは変わらないのだが、よくなったね」と評価すると、
「どんどん変わるから」。
「皮の苦味のような後味が、レモンのようで、ライムの様で心地よい。以前におかしな酸が感じられたのとは大分違うね」
そうなのである。実は以前に試飲したものとは、あとで調べると、樽も違っていた。このような難しい酸の年は熟成したものの方が美味い。そして次ぎはこれまたスタンダードなリースリング地所ヘアゴットザッカーからのキャビネットである。これもなかなか良かったが、奨められたハーネンビュールは同じ地所の最上部にある二重十字架の建っている区画である。
「あそこのは先日試食したよ。もちろん慎重に選んでだけどね」
「分かってますよ、いいんですよ。」
「フォンブールと並んでいるところだよね。今年の葡萄ははじめは甘かったけど段々とミネラル味の凝縮度が増してね」
それを飲んで納得が行った。
「これは典型的な石灰だよね。丸くなっていて、そして静かなリースリングだよね、もう少ししたら絶対面白いよ」
果実風味が炸裂するここのリースリングとしては、とても大人しく上品で繊細な方向へと深みを見せる。ここ数年のお婿さんの表情の陰影のようなものを見せる深みへの変化である。
「こうなったら直接シュペートレーゼを比べたいね」と要請して、それをのむと流石に味も濃いがクリーミーな変化も予想させる上級のグランクリュに繋がる良さを見せるのだ。
さて、そのグランクリュであるが、先ずはキーゼルベルクである。
「先日、2005年のこれを日本で飲んだと聞いてね。重かったらしいよ、まあ、元々重さがあるワインだけどね」と飲むと、これが意外に酸が強く効いているのである。分析票を見ると糖が4.2Gに対して9.3Gだから突出しているのである。その質は、今年のものに共通しているが刺激性は無く、臭みも無く、量感があっても浮ぶような軽みがある。2008年産リースリングは早く開いてはいたのだが、その酸がこうして熟れてくると嫌味が消えて、殆ど大気のように纏わる浮上感さえ感じるリースリングとなっている。
これには驚いた。何時の間にか弱点を埋める方向へと仕上げをしてきているお婿さんの腕と配慮を評価したい。流石に伸び代があると勝手に見込んでいるだけのことはある。悉く、我々が指摘する欠点を悉く克服して来ている腕は予想以上であり、お婿さんはきっと今後名前が出ると思うのだ。
そしてお待ちかねのフロインドシュトュックは、先のハーネンビュールと似ているのだ。今年は更に繊細に静かなリースリングが出来上がっている。
女の子は言う「今年のはまた私ごのみのになったの」
「なるほど、これは良いや。先日2007年産をシュタインピルツソースでやったら2004年産のクリーミーなものの方があったかなと思って、2007年産が一寸新鮮味が落ちたから、2008年産と比べたかったんだよね」と、料理にちぐはぐな選択しか出来なかったのを恥じる。
そして、ウンゲホイヤー。恐るべき進展。まさに何一つ恥じることのないグランクリュの域にはじめて達したと思った。もしかすると、この土壌に関しては、そのワインの格は違うとは言えフォン・ブールやビュルックリン・ヴォルフと比較出来るようになったかもしれない。流石に後者はまだそれを売り出していないのである。これも2002年グランクリュのように長めの樽熟成で独特な丸みと長寿を約束するリースリングになるのだろうか?それを見極めるには少なくとも五年以上は待たなければいけないが。兎に角、お婿さんのウンゲホイヤーは、重みは違うが一種の透明感で輝いていた嘗てのフォン・バッサーマンのシュペートレーゼに匹敵しているかも知れない。天晴れ ― そうこうしているとご本人が現われたので、いいよ!と一声掛けておいたがお疲れの顔である。樽と格闘しているのだろう。そんな顔をしていても確実に耳にしているいるのが、まるで花道を通る関取のような感じだ。
そのあとに試飲した売れ残りの2006年産シュペートブルグンダーとメルローを引っ掛けて、暗闇の地所をいい心もちで散歩したのはいうまでもない。
参照:
同じ過ちを繰り返す危険 2009-10-08 | アウトドーア・環境
隠されている解放への障壁 2009-07-20 | アウトドーア・環境