

アニメ版

漫画原作
■ これって、実写じゃない? ■
今期アニメの最大の期待作『悪の華』
本屋さんに並ぶ原作漫画の表紙だけでも充分にインパクトがありますが、
ボードレールの詩集、『悪の華』をそのまま題名にしているあたりも
好奇心をコチョコチョくすぐられてていました。
ちょっとヘビーそううな内容のこの作品を
どうやってアニメ化するのか大変興味がありました。
第一話を見たのですが、
その作画は上の通り。
イヤー、ビックリです。
実写動画を先撮りしてから、それをアニメに書き起こしています。
「ロトスコープ」という手法です。
実験的な短編アニメなどでは見た事がありますが、
商業アニメでこの手法を用いるのは初めてではないでしょか?
「ロトスコープ」の作品としては、昔懐かしい[a-ha!」のPVを思う浮べます。

http://www.youtube.com/watch?v=djV11Xbc914
このPVは鉛筆デッサンと実写の組み合わせで
現在見ても、素晴しいクォリティーですが、
その労力を創造すると、気が遠くなりそうです。
一方、『悪の華』の「ロトスコープ」は、
実写の輪郭をデジタルプロセスで抽出して、
それを元に作画している様なので、
情報量の少ない実写といった質感です。
■ 何故実写で無いのか? ■
漫画を映像化する場合、アニメにする場合と実写にする場合があります。
青年誌などの作品は、大人向けの作品の場合、
想定される視聴者はアニメを観ない人達です。
ですから、実写ドラマで映像化されます。
近年のTVドラマは漫画原作が多いのは、
アニメ向けで無い、漫画が増えているからだとも言えます。
『バンビーノ』や『働きマン』など、幾つものタイトルが直ぐに思い浮びます。
『悪の華』も多分、内容は実写向きの作品ですが、
結構「エグイ」シーンとかもある様なので、
TVドラマとして放送するには、内容がいささか問題がありそうです。
アニメならば深夜枠なので、キワドイ描写も可能ですが、
監督の長濱博史は、一度、アニメ化のオーファーを断っているそうです。
やはり実写向き作品と判断した様です。
しかし、TVの健全な時間帯で放映できない内容となると
後は映画しか無い。
原作が話題作だけに、映画では極々限られた人にしか観られませんし、
時間的制約も大きくなります。
そこで、2度目のオーファーで監督が選んだのが、
「ロトスコープ」という手法だったのでしょう。
実写の様なアニメを選んだのです。
■ 主人公がブス ■
初回放送が終わった後の2Chの感想などを見てみると、
「主人公がブス」とか「原作をレイプしている」とか
否定的な意見が大半です。
私などは、小劇場で上映される日本映画を彷彿とさせる演出に
モニターに釘付けになっていましたが、
原作組は、キャラクターデザインの違いに翻弄された様です。
■ 2D VS 3D ■
アニメファンの多くは漫画やアニメという2次元の画像に感情移入する能力を有します。
一方で、現実の人(3次元)は、ナマナマしくて苦手と敬遠する人も居増す。
「ロトスコープ」で描かれたキャラクターが2Dキャラか3Dキャラか
その受け止め方で、アニメファン達の反応は大きく違います。
アニメファン達は「ロトスコープ」のキャラクターを
どうやら3Dキャラだと感じている様です。
リアルなキャラクターや演出という意味では、
原恵一の『カラフル』が思浮びますが、
リアルな原画から描き起されたキャラクターは、
あくまでも2Dのキャラクターとして認識されます。
それは、絵の動き方に大きな違いがあるのでしょうが、
描かれた絵は、無駄の無いスムースな動きをします。
しかし、「ロトスコープ」の絵の動きは、
色々と無駄があります。
重心がぶれたり、イスから立ち上がるにしても、ちょっとしたタメがあったり・・・。
そうしたちょとした動き方一つが、
2Dの映像と3Dの映像との違いとして確実に存在しています。
■ ロトスコープが作り出す異世界 ■
1話を観る限りでは、監督は「リアルな高校生像」を追求している様です。
高校生同士にありがちな、どうでも良いダラダラとした会話。
下校中の男子同士のじゃれあい。
こういったシーンは、小劇場映画の十八番ですが、
それを「ロトスコープ」というフィルターを通す事で、
より、彼らの行動を客観的に観察する事が出来ます。
実写をデジタルで取り込んで、作画に起しなおす時、
人の表情や、輪郭を少しずつ修正しなければ、
アニメの絵として成立しないでしょう。
その過程で、当然、動きや輪郭で取捨選択がなされ、
動きや輪郭に、第三者の意思が働く様になります。
役者が演じていた映像に、絶えず第三者の意思のフルターが掛かるのです。
それは、瞬きを省略したり、ほんの少し、目じりを上げたりといた
些細な違いなのかもしれません。
しかし、そういった実写とは違う、少しずつの違和感が積み上がる事で、
私達は、実写とは異なる「異世界」に引きこまれてゆきます。
何だか、白昼夢を観ている様な、「ボーっとした酩酊感」を覚えます。
■ 実写では「単なる暴力」にしか見えないシーンを、どう変換するのか? ■
「悪の華」の内容は、いささかエグイ。
実写だとそういうシーンは「暴力の生々しさ」が際立ってしまいます。
をれを「ロトスコープ」という手法を用いる事で、
何か、別の表現にする事が出来ないか?
そういった点も、監督の意図するところでは無いでしょうか?
■ 商業アニメで実験アニメが見られる楽しさ ■
『空中ブランコ』や『四畳半神話大系』など、
日本のアニメは実験作品の宝庫です。
一方で、その表現が「表現の為の表現」に陥りがちな為に、
物語の内容的には、満足のいく作品とは私的には感じられません。
「小劇団の演劇」に近い閉塞感を覚えるのです。
一方『悪の華』は、原作からして内容が非常に濃い。
ですから「ロトスコープ」という実験的演出は、
単に「アニメ絵」でこの作品を表現したくなかった監督の拘りの表れであって、
「実験的作品を作ろう」という目的で採用されたものではありません。
ですから、前出の2作品は、私は数話で見る事が出来なくなりましたが、
『悪の華』は、きっと毎週、モニターに食い入る様にして観てしまうでしょう。
こんな作品が、TVで放送される日本って、
本当に素晴しい国だと思います。
<追記>
「ロトスコープ」の商業作品には、ディズニーの『白雪姫』がありましたね。
動きに拘る海外アニメには、ロトスコープの作例がチラホラありますね。
いずれにしても、TVシリーズでは、
コストが掛かりすぎるので使われ無い手法ですが
デジタル技術の進歩で、それが可能となったのでしょう。
<追記2>
エンディングが、これまた強烈。
「ASA-CHANG」ですね。(スカパラのパーカション)
サンプリングされた声を、パーカッシブに演奏している感じですかね。
前衛音楽シーンにおいては、日本は世界と互角かそれ以上です。
特に、この作品の様な、言葉とのコラボレーションは
日本人と日本語の独特なセンスが炸裂します。
オリジナルはこちら。
アニメ版のリアレンジは、だいぶ印象が違いますね。
自分的には90点ですが、全13回でどこまでやるのでしょうね?。
せめて佐伯さんが壊れるまではやって欲しいです。
前期、”まおゆう”で裏切られてますからねぇ・・・。
夜中にアニメを観て、2chに感想を書き込む様な人達は学生や二ート達ですから・・・。原作組も高校生や大学生が多いので、戸惑う事でしょう。コアなファンや海外では非常に評価が高いと思います。それと、単館上映の映画を観る層には受けると思います。
まおゆうは2期を期待ですね。