
今年もやってまいりました、年末好例の「今年のアニメ私的ベスト10」
もったいぶらずに第一位の発表です!!
1位 『のんのんびより』
「間」の表現力・・・今期最強 『のんのんびより』
田舎の分校の子供達の1年を、ほのぼのとスケッチした名作です。
「日常系アニメ」の到達点であり、映画も含めた全ての映像作品の中で比較しても、極めて高いレベルにある作品と言えます。
監督の川面真也氏の「初監督」作品ですが、川面氏は数々の作品で演出として素晴しい手腕を発揮してきただけに、監督デビューにして既に完成された安定感が漂います。
特に独特の「間」の取り方は、『True Tears』の9話「なかなか飛べないね」で既に異彩を放っており、風景で間を繋ぐ演出や、カットアップ的な手法も既にこの頃から多様しています。
非常に映画的な臭いを感じさせる作風で、とにかく「空気感」を作り出すのが上手です。『のんのんびより』でも四季の空気の臭いの違いまで描き分けています。
シリーズ構成は、今年ノりに乗っている吉田玲子、そして脚本には志茂文彦の名も。
1位 『京騒戯画』

さて、続いての第一位は・・・・あれ、2位じゃなにの?
・・・いえいえ、一位です。『のんのんびより』と甲乙付け難いので、この作品も1位。
良く分からないけれど「何だか凄い」事だけが分かる・・・『京騒戯画』
東映アニメの秘密兵器、松本理恵監督の『京騒戯画』は難解な作品です。
前出の川面監督か、かなり論理的で技巧的な演出を駆使するのに対して、新人の松本監督はまさに感性の赴くままの演出をしています。
めまぐるしく変る表現手法や、躁常態の喧騒など、作品自体は荒削りです。しかし、観る人をひきつけて離さない魅力に溢れた作品で、なんとも言えない「幸せな気分」を味わえるという意味において、今年最大の収穫とも言えます。
細田守の『デジモンアドベンチャー』に感銘を浮けて東映アニメに入社したという女性監督ですが、『プリキュア』ファンの間では、その知名度は既に高かった様です。
1位 『有頂天家族』

続いての1位は・・・・エエエエー、又1位なの??
そう、今年のベスト10はトリプルクラウンなのです!!
吉原正行氏の初監督作品、『有頂天家族』。
初監督作品ですが、吉原正行氏もアニメ業界で永く活躍されてきた作家さんです。
満を持しての監督作品ですが、いきなりこのクオリティーは素晴しい。
森見登美彦の作品は映像的で、アニメに向いているとも言えますが、それだけに下手な演出をすると陳腐に陥り易い。特に、妙に時代掛かったセリフや描写をそのままやるとダサくなります。
吉原監督は、非常に現代的なセンスの中に、時代掛かった設定を上手くちりばめており、そのバランスが秀逸です。
そして下積みが長いだけに、演出は既にベテランの域に達しています。
特に第6話「紅葉狩り」は出色の出来栄えで、単話だけなら、今期ベスト1と言える内容です。
現在のジブリ映画に1800円払うならば、私はこの6話目を10回連続で見たい。
とにかく、こんな作品が普通にポンと出て来る日本のアニメ業界のレベルはスゴイ。
4位 『たまこまーけっと』

このOPだけで今期最強・・・『たまこまーけっと』
これまた今年、飛ぶ鳥を落す勢いの吉田玲子がシリーズ構成。
京都のお餅屋さんの娘、「たまこ」と彼女を巡り人々の日常系作品。
とにかく、たまこの所作の一つ一つに、アニメの培ってきた伝統を感じずにはいられません。
京アニの作品のクオリティーの高さは、スカートのプリーツの揺れ方などに遺憾無く発揮されています。
『のんのんびより』さえ無ければ、1位に入れる内容ですが、同じ系統の作品ではやはり優劣を付けざるを得ない。
違いは僅かなのですが、アニメ的世界観の中に閉塞するか、アニメの外の世界にきちんと繫がっているかの差はとても大きい様に思われます。
『のんのんびより』はアニメを見ない様な人が見ても理解出来る内容。日本人の普遍的感情の根源にコミットする力を持っています。『たまこまーけっと』も同様の力を感じる作品ですが、一方で視聴者であるオタクに媚びている感じも強い。
実は『たまこまーけっと』は表面上は山田洋次監督の寅さんシリーズに非常に良く似ています。お団子屋さんの日常とお持ち屋さんの日常。
しかし、山田洋次を小津安二郎の系譜で眺めた時、『のんのんびより』の方がその正等な継承者である様に私には感じられます。「馴れ合い」とは対極の緊張感が存在するのです。
『男はつらいよ』シリーズにもある種背筋に一本通った所が感じられます。それは、ちょっと「困ったちゃん」である寅さんと周囲の人の間にある距離感から生まれる一種の儚い様な感覚です。仲良くしていても、ベッタリとはしていない・・・・。ある種のリアリティーがそこには存在します。
『たまこまーけっと』と『のんのんびより』の最大の違いは、このリアリティーが在るか、無いかでは無いかと・・・。オタクの深層にコミットするか、一般人の深層にコミットするか、そんな違いなのかも知れません。
5位 『サムライフラメンコ』

現実ヒーロー物に見る日米の違い・・・『サムライフラメンコ』VS『キックアス』
何気に「スゴイこと?」になっている『サムライフラメンコ』
「こんなのアリエナイ!」から「アリかも?」の転換・・・『サムライフラメンコ』の脚本の構造
年を挟んだ2期構成の作品なので、完結していませんが、この作品からも目が離せません。
倉田英之の脚本のセンスが光りまくる『サムライフラメンコ』。
一見、軽い乗りのヒーロ物のパロディーですが、料理の仕方でこんなに面白い作品になるというお手本。とにかく予測から大きくかけ離れた方向に話しが進んで行きます。
技巧的な作品だけに、それが気に入らないという人も多いと思いますが、私はそれも含めて評価したい。
実はフラメンコダイアのキャラだけで全てが許せてしまう・・・。
6位 『悪の華』

実写とアニメの境界・・・『悪の華』
ロトスコープという実写先取りをアニメで描き起こすという、欧米では良く使われる手法を用いた意欲作です。
アニメと実写の違いとは何か・・・。漫画の実写化作品とは何が違うのか・・・。そういった映像表現の根本にチャレンジする作品です。
実写では出せない「違和感」が作品を支えているとも言えます。
7位 『キルラキル』

コマケーことは気にするな!! アニメの自由を開放する『キルラキル』
このアニメを観たら他のアニメが全てつまらなくなる・・・『天元突破 グレンラガン』
『グレンラガン』のスタッフが2匹目のドジョウを狙ったとも言えますが、「アニメの本質とは何か」という問題をひたすら追及しています。
「キレイな作画」が評価される昨今の小さくまとまってしまったアニメ業界に強烈なパンチを喰らわせる作品。永井豪のDNAは顕在です。
8位 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』

エンタテーメントとしてのアニメやラノベが忘れてしまったものを思い出させてくれる作品として、もっと評価されて良さそうですが、実は高校生達はこの作品をしっかりと支持しています。
表現者の年齢が、受けて側と同年代というのがラノベの最大の魅力です。下らない作品も多いのですが、同年代の悩みをエンタテーメントに昇華した時、思わぬ作品が生まれます。
アニメも丁寧な作りで、私は好きな作品です。
9位 『ガッチャマン・クラウズ』

伝説を断ち切る勇気・・・『ガッチャマン・クラウズ』
ちょっと何をしたいのか分からない作品になってしまったのが残念。
アングラ演劇に似た様な構造を持っており、表現が目的化して失敗するパターン。
それでも、タツノコプロが何だか新しい事にチャレンジしている意気込みは感じます。ガッチャマンという大看板を使って、これだけ斬新な試みをする、その勇気に拍手したい。
10位 『浪打際のむろみさん』

これまたタツノコプロの作品。
ショートコメディーですが、テンポが良く、スケールがギャップが面白い。
オープニング映像だけでも30回連続で見れます。
キルラキル並にパンクな映像です。
さて、異論反論色々あるかと思いますが、「初監督作品」を3作品も1位にしてしまいました。
どれか一つ選べと言われたら『のんのんびより』なのですが、松本監督の今後はアニメファンをしては大いに期待したいし、『有頂天家族』は視聴者が低年齢化してしまったアニメにおいては、重要な作品であるとも言えます。
2013年も終わってみると非常に充実した作品が多い年となりました。特に冬アニメにスゴイ作品が多くて寝不足です。
アニメ業界で活躍されている皆さんにとって、来年も実りある一年である事をお祈りしています。今年もありがとうございました。
最後に、今年も「人力でGO」をご愛読頂きありがとうございました。
私の個人的なメモ帳の様なブログですが、皆様のコメントや拍手を楽しみに、出来るだけ毎日更新するように心掛けています。
来年が皆様にとってステキな年でありますように!!
<追加企画>
過去の名作を見てみよう
今年は『無限のリヴァイアス』(1999年)、『ゼーガペイン』(2006年)、『True Tears』(2008年)という過去作品を見てみました。
キカケは全国ご当地アニメの動画で、わが町浦安が舞台の『ゼーガペン』を見た事です。これらの作品を見ると、現在の日本のアニメの陥っている問題点が良く分かります。
日本のアニメの問題点は、「視聴者の低年齢化」と「視聴者の理解力の低下」にある様です。上記3作品はどれも素晴しい作品ですが、『無限のリヴァイアス』はハードSF的な面が現在では好まれないでしょう。『ゼーガペイン』も哲学的内容なので理解不能として片付けられてしまいます。『True Tears』は、「暗い、ドロドロ」という酷評を受けそうです。
これは作品の問題では無く、視聴者の問題なのですが、制作サイドは視聴者の好みに合わせた作品を作らなければ経営が成り立たないので、上記3作品の様な意欲的な作品はこれからは期待出来ないのかも知れません。
『無限のリヴァイアス』
年明け1発目のアニメ評論はこの作品を取上げてみます。
揺らぐ「実存」に対するアニメ的な回答・・・『ゼーガペイン』は『エヴァンゲリオン』への回答
「花咲く」や「あの日」が吹っ飛ぶ名作・・・『Trure Tears』