■ 国家を家庭と仮定してみる ■
金融緩和に期待が集まっています。
はたして、金融緩和で日本が復活するかどうか、
国家を家庭と見立てて、考察してみます。
1) 国内経済は家庭の中でのお金のやり取り(お母さんが財布を預かって小遣いを配る)
2) 一応、畑や簡単生活必需品の製造設備を備えた家庭を想定
ちょっと変ではありますが、こんな家庭があたとします。
200年前までは、この家庭はほぼ自給自足が成り立っていました。
しかし、だんだんと周囲の家が豊になり、
テレビや洗濯機を買ったので、お母さんがお父さんに買ってくれとせがみます。
お父さんは今まで、畑仕事をして一家を食べさせていましたが、
畑の収穫では、一家が食べるのがやっとです。
そこで、お父さんが、近くに出来た工場に働きに行くようになりました。
畑はお母さんと、おじいちゃん、おばあちゃん、そして子供達で耕す事にします。
お父さんの給料が出て、一家は念願のテレビと洗濯機も買いました。
工場の売り上げは順調に伸びていて、給料も上がりました。
一家に貯金も出来て、銀行に預けて利子も貰っています。
ところが、工場の業績が悪化し、ある日お父さんの給料が減らされました。
でも家電品も増えたので、電気量が掛かります。
畑で採れた物意外の美味しいものの味を覚えたので、急には止められません。
それに、最近は畑仕事を疎かにしていたので、畑は草ボウボウで収量が減っています。
困った事に、子供達は就職も出来ずに家でゴロゴロしています。
これでは、嫁も貰えなければ、孫の顔も見れません。
最近では、おばあちゃんの貯金を引き出す話が度々出てきます。
■ 日本が現在の生活レベルを維持する為には輸入が不可欠 ■
上の例えが正しいかどうかは、皆さんの判断に委ねますが、
日本が現在の生活レベルを維持する為には、輸入は不可欠です。
日本は石油やガスや石炭など、エネルギー資源のほぼ100%を輸入しています。
日本は食糧(カロリーベース)の60%を輸入しています。
工業製品の材料となる鉄鉱石などの資源もほぼ100%輸入しています。
日本で自給できるにのはセメントの材料の石灰石ぐらいですが、
セメントの製造には大量のエネルギーを消費します。
様は、家計ではありませんが、日本が生活する為には「外貨」を稼ぐ必要があります。
■ 外貨を稼ぐ方法は、輸出と投資のリーターン ■
外貨を稼ぐ方法は二通りあります。
1) 輸出(貿易収支)
2) 対外投資の収益(所得収支)
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/japan/sothers/12040601sothers.pdfより
昨年から日本の貿易収支が赤字になっています。
1) 経済が発展すると通貨が高くなり、輸出産業は価格競争力を失う
2) 製造業が海外移転する
3) 輸出が減少する
4) 製品輸入が拡大する
5) 貿易収支の黒字が減り、最終的には赤字化する
一方で所得収支の黒字は拡大しています。
1) 輸出によって稼いだ外貨を国外に投資する
2) 投資額が年々積み上がる
3) 投資の収益が増える
4) 空洞化で海外に進出した企業の利益が国内に還元される(直接投資収益)
貿易収支が減少して、所得収支が拡大する原因の一つが、
国内の製造業の海外移転が挙げられます。
日本の製造業は、国内生産と海外生産を合わせると一環して売り上げが拡大しています。
■ 円安が有利か、円高が有利か ■
国内の輸出業の業績悪化だけに注目すれば、
円安は輸出にプラスに働きます。
一方で、海外投資のリターン(所得収支)に注目すれば、
円高は、海外投資する時は有利に働きますが、
リターンを考えると、不利に働きます。
■ 通貨を切り下げ続けるイギリスとアメリカ ■
かつての覇権国家イギリスは、海外の豊富な資産を持っています。
植民地を手放したとは言え、資本の面から世界中の企業を支配しているとも言えます。
当然、イギリスはポンドが機軸通貨の時に海外に積極的に投資をし、
現在はそのリターンで食べている国とも言えます。
当然、リターンを得る時には、ポンド安が好ましい。
そこで、イギリスはポンドを切り下げ続けています。
しかし、ポンドの切り下げは輸入物価の高騰を招きます。
イギリスがポンド安を維持できたのは、「北海油田」の存在が大きいでしょう。
エネルギーを自給できたからこそ、ポンド安が可能だったのです。
同様に覇権国家であるアメリカもドルを切り下げ続けています。
アメリカも食料が自給でき、原油も世界有数の産出国です。
さらに機軸通貨ドルは多少の過剰発行でも、大きく値崩れはしません。
そして、国内の高金利によって、世界中から投資を集めています。
さらに、アメリカの利益は資本を通してイギリスに還流します。
イギリスとアメリカにとって「適度な通貨安」にはメリットが大きいのです。
■ 日本の海外資産 ■
日本の製造業は完全にピークアウトしています。
一方で、所得収支は上昇を続けています。
日本もイギリスやアメリカの様に、
投資のリターンで稼ぐフェーズに入っています。
日本の海外資産は、アメリカ国債が代表的です。
その他に、投資信託などを通して、老人の資金が海外に投資されています。
企業の内部保留も海外で運用されているものが多いはずです。
金融機関も金利を求めて、海外で運用をしています。
さらに、製造業は海外に工場を移転するなど、
海外投資に積極的です。
■ 金融革命という詐欺 ■
製造業の衰退したアメリカとイギリスは、
さらなる利益の拡大を、「金融革命」によって達成しました。
「債券金融システム」や「デリバティブ」という詐欺商法で、
一時的に利益を急拡大したのです。
しかし、詐欺は必ず破綻します。
リーマンショックによって、金融革命という詐欺商法は勢いを失いました。
■ 通貨の価値 ■
日銀の金融緩和は、円というローカルマネーの緩和です。
円は上の例で言えば、家計の中で発行されるお「小遣い券」みたいなものです。
一応、節度を持って発行していれば、家計外の本当の通貨と交換が可能です。
この「お小遣い券」が価値を持つのは、
家計に貯蓄がある為と、家計が土地や財産や生産設備を持っているからです。
家計の資産は有限ですから、「お小遣い権」を大量に発行すると、
「お小遣い権」の為替レートは下がります。
同様に家計の資産が減っても、「お小遣い権」の価値は減少します。
家計の資産の実体は、「経常収支」に繁栄されます。
経常収支が黒字ならば、その家は儲かっています。
赤字ならば、所得よりも、支出が多い事になります。
当然、経常収支が赤字では、家計の資産が減少するので
それに応じて「お小遣い券」の価値も下落します。
金融緩和とは、家庭の中で「お小遣い券」を増やす事に似ています。
「おかあさん、肩たたき100回やったからお小遣い券ちょうだい!」
「はいはい、じゃあ、1枚ね」
「エー、1枚じゃ困るよ、2枚にして!」
「はいはい、じゃあ2枚にしましょう」
「おい、弟!宿題手伝ってやったんだからお小遣い券わたしな」
「じゃあ、1枚でいい?」
「ダメ、2枚。だって、肩たたきで2枚貰ったの知ってるんだからね!」
「エー、だってボクが100回も型叩いたんだよ...
「ダメ、この頃、お母さんお小遣い券沢山くれるから、
お小遣い券ってありがたみが無いんだよね」
まあ、たとえ話として妥当かどうかはありますが、
通貨が増えれば、通常、通貨の価値は下落します。
ただ、こんなケースも考えられます。
「お姉ちゃん、知らないの?おばあちゃんがお小遣い券を溜め込んでいるんだよ」
「エー、本当なの」
「なんだか、最近おばあちゃん、ぼけてきたのかお小遣い券をお母さんに預けてるんだ」
「そういえば、昔はおばあちゃんの手伝いで一杯お小遣い券もらったけど、最近くれないね」
「それは違うよ。お姉ちゃんが、おばあちゃんの手伝いをしないからさ」
「でも、最近、おばあちゃん、肩もんでとか言わないよ・・・」
「それじゃあ、おばあちゃんの手伝いを沢山やれば良いんだね」
「おばあちゃん、何か手伝う事無い?」
「ウーン、無いねえ。年を取ったら肩も凝らないし、仕事もしないから手伝ってもらう事も無いねえ・・・」
「エー、じゃあ、お小遣い頂戴!!」
「お小遣い券は、お母さんに預けてあるよ。それに、大事に使わないと将来お前達に肩たたきも頼めやしない。」
■ 経常収支の悪化と、量的緩和で円安になる可能性が大きい ■
現在の円安には二つの理由がある事に注意が必要です。
1) 経常収支の減少という円の実質価値の減少
2) 金融緩和で円が増え、円の価値が下落するという貨幣量比率の問題
これらの二つの要因を市場が見込んだ上で、
現在の円安相場が形成されています。
■ 通貨比率に左右される為替レート ■
ソロスチャートは通貨比率による為替変動を裏付けると言われています。
しかし、為替の変動要因は、通貨比率の他に、通貨の価値にも依存します。
通貨の実質的価値に基準として、経常収支が挙げられます。
日本の経常収支が悪化して外貨を稼ぐ能力が衰えれば、
為替市場から外貨を調達するケースも増えてきます。
この時、より多くの外貨を得ようとすれば
より多くの円を為替市場で売る事になり、
円は市場でだぶ付くので、円安になります。
結局、そろすチャートに現れる通貨比率の変化が為替変動を引き起こしますが、
その原因には、金融緩和による通貨量比の変動と、
国際競争力低下による通貨量の変動が含まれる事にも注意が必要です。
■ ドル・ユーロ・円が等しく減価している ■
リーマンショック以降、ドルもユーロも円も発行過剰気味です。
円の増刷量が最も少なかったので円高になりましたが、
円はそれ以前の量的緩和によって、円安傾向にありました。
生産力比較で行けば、ドルは70円/1ドルでも不思議ではありませんが、
リーマンショック依然は日銀の量的緩和で円が120円という安い水準を維持していました。
円高になったから日本の輸出企業が衰退したのでは無く、
バブル崩壊後の不況を理由とした量的緩和が、
日本の輸出産業の国際競争力を支えていたのです。
■ バブル崩壊後は日本の構造変化の為の時間だったのかも知れない ■
プラザ合意後に進行した円高は強烈でした。
240円が一気に120円程度、一時は80円台を割り込みました。
ドル円の本来のレートが70円代であるならば、
これは当然の事と言えます。
しかし、80円台のレートが続けば、日本の輸出産業は壊滅したはずです。
だから、バブル崩壊が意図的に画策され、
その後の金融緩和によって為替レートを安く誘導したとも考えられます。
バブル経済でどんなに日本の国内景気が過熱しても、
輸出産業が即死したのでは、日本は外貨を稼ぐ事が出来ません。
これでは、日本の国自体が立ち行かなくなります。
ですから、バブル崩壊後の不景気の間に
日本はもう一度輸出競争力を回復する必要がありました。
それは、新興国の猛追で競争に負ける白物家電などの分野では無く
スマホなどの情報家電や、あるいは自動車のブランド力の強化、
あるいは、全く新しい輸出産業の育成だったのかも知れません。
「金融」もこれらの中に含まれますが、
ユダヤ人達を相手に、日本人が勝てるとも思えない分野です。
だって、ルールはいつも彼らが勝手に作って、そして変えてしまうのすから。
しかし、日本はバブル崩壊後の20年を、
現状の温存という、一番安易な方法で浪費してしまいました。
■ 公共事業という開発独裁政治に先祖帰りする愚 ■
日本は明治以来「富国強兵」によって発展して来ました。
戦争が無くなった時代の「兵」とは、「ビジネス戦士」達でした。
アジアや中東やアフリカの奥地まで、日本のビジネスマン達は出かけて行きました。
そうして、必死に市場を開拓し、日本の繁栄を築きました。
ところが、最近では商社でも、「海外勤務」を敬遠する社員が居ると言います。
現在の中国や韓国に見られるガムシャラな向上心を失った日本の衰退は当然とも言えます。
日本人の多くが内向きになると、
国内の市場に視線が集中する様になります。
そして、国内に優良な投資先が見あたらないので、
儲からない仕事でも、公共事業で仕事を作れば良いという発想まで後退します。
日本は開発独裁という経済の開発途上国まで後退しようとしています。
しかし、日本の人口が減り続け、インフラの高率が落ちる事が確実な以上、
この選択は日本の衰退を早めるだけかも知れません。
1年、2年という短期的視点で見れば、
経済は回復するかも知れませんが、
「お小遣い券」の流通が活発になっても、
「お小遣い券」の価値が低下すればバブルが発生するか、
インフレが発生するかの何れかです。
■ インフレを大望するのは政府であって庶民では無い ■
インフレで得をするのは政府です。
財政負担が事実上軽減されるからです。
一方、庶民の生活は物価高によって圧迫されます。
賃金がインフレ率に比例して上昇すれば問題有りませんが、
賃金は硬直性を持っているので、インフレ率に遅れて上昇します。
結果的にローンを抱えた人達も、実質金利の低下による利益と、
物価上昇による不利益が相殺する事になります。
(変動金利で住宅ローンを組んでいる人は・・・アウト)
結局、インフレが正義の味方の様に宣伝されていますが、
高度成長期を過ぎた国家のインフレには注意が必要です。
本来、中央銀行のインフレターゲットは、
インフレ抑制政策であった事は、メディアは国民に伝えていません。
インフレの本質に気付いた時には、遅いのかも知れません。