■ お金を空からばら撒けば、景気は回復する?! ■
「需要が足りないのなら作ればいいじゃない」とマリー・アントワネットなら言いそうですが、最近急激に台頭しているヘリコプターマネー論。
1) 世界経済の低迷の原因は「需要不足」
2) リフレ政策では需要を喚起するには十分では無かった
3) 政府が財政を拡大して直接国民にお金をばら撒き需要を創出すべき
なんだか、リーマンショック直後に三橋貴明氏の周辺で盛り上がった議論を思い出します。
金融緩和と需要不足の分野では日本は世界の10年先を独走しています。アベノミクスの初期が順調な滑り出しだった背景には、期待の拡大や、株価の上昇、円安の進行などの効果と共に、大型補正予算と東北の震災復興の影響は無視できません。
その意味では「財政拡大は景気対策として有効」と言えますが、一方で財政を永続的に拡大出来なければ、需要が落ち込んでいる先進国では財政拡大の効果は一時的に過ぎません。この分野においても日本は世界のトップランナーです。
鳴り物入りでスタートした北海道新幹線の乗車率を見れば、インフラの整備された国家において公共事業の乗数効果が低い事は、今更議論する余地も有りません。
■ 行政はお金の使い方が下手 ■
「ふるさと創生資金」の使われ方を見れば、行政がまともにお金を使えない事は明白ですが、「所得再分配」と割り切れば一概に否定は出来ません。
ただ、往々にこれらの資金は本当に困っている人達の手元には届きません。利権に連なる人達の間で再分配され、増えた貯蓄は金融システムを通じて金利の高い海外へ流出してしまいます。結局、ふるさとを創生する効果は薄い。
■ 中産階級の復活だけが景気を回復させる ■
日本にしても、アメリカにしても需要不足の原因は「中産階級の没落」です。
グローバル企業は労働者に利益を還元する事を嫌い、さらに利益を税金として国家に納める事を嫌います。そのしわ寄せは中産階級の没落という形で表れています。
安倍政権は企業に「所得改善」を呼びかけていますが、東芝やシャープの例を見るまでも無く企業間のグローバル競争は熾烈で、労働分配率を高めると企業が負けるというジレンマも生まれます。
特に、最近の消費傾向は「一時のブーム」に流され易いので、アップルとて3年後にどうなっているかは誰にも分かりません。そんな時代に企業が内部保留を厚くするのは当然とも言えます。
さらに本業よりも内部保留の運用による利益の方が高ければ尚更です・・・。
■ 需要が足りないのでは無く、「買えない」のでは ■
ところで最近世界的に話題の需要不足ですが、冷静に考えれば「欲しい物は無限に存在します」
ただ、所得低下や将来不安が原因で、思うように消費出来ないのが現代の日本人の悩みです。その裏返しで「ダンシャリ」や「シンプルライフ」なんて「買わない」という選択肢が美化されていますが、これは単に「買えない」自分を誤魔化しているに過ぎません。
これは先進国に限らず中国などの新興国も共通で、「庶民は買いたいけどお金が足りない」。
だから「政府がお金をばら撒くべきだ」という主張が出て来るのも頷けます。
■ 企業の負担を政府、将来的な国民負担に据え換えるヘリコプターマネー論 ■
ここまで考えて、「アレ、変じゃね?」とお気付きでしょう。
1) 企業は賃金を十分に払わない
2) 所得の低下を政府に負担させる
3) 財政の拡大は将来的な増税やインフレ税(通貨の価値に棄損)という形で国民に
クルーグマンが来日してエラそうな事を言っていますが、彼などはグローバル企業や世界の経営者の走狗に過ぎないのでしょう。ノーベル経済学賞なんて便利な肩書に過ぎません。
じゃあ、労働者がストライキで対抗出来るかと言われると・・・・企業は簡単に海外に移転してしまいます。
日本を始めとする先進国の成長が鈍化した分は新興国や途上国が豊になっている訳で、世界全体としてはバランスしており、パイも拡大しています。
結局先進国は「低金利やマイナス金利の国債発行」という好条件で財政を拡大して、新興国や途上国の成長を待つしか無いのかも知れません。これも、リーマンショック前から「デカップリング」と呼ばれていましたが、新興国の内需はなかなか拡大しない・・・。これも、新興国の労働配分率が低く抑えられてい事が原因です。要は賃金が抑制されている事が原因。
これが「資本主義における成長の限界」なのかも知れません。一種の「合成の誤謬」で、企業が利益を最大化させればさせる程、全体としての需要を抑制してしまう・・・。
■ 実はヘリコプターマネーを可能にしている低金利やマイナス金利が景気を悪化させる ■
金融緩和や一般的な財政政策の行き詰り感から、俄かに注目され始め、メリットばかりが強調され始めたリコプターマネー。これを成立させる為には中央銀行が国債を直接買い入れて市場売却しないとコミットするか、或いは現在の日本やドイツの様に国債金利がマイナスになって、国債を発行すれば政府が儲かる様な状況が不可欠です。
「なーんだ、なら日本はヘリコプターマネーをやり放題じゃないか?」って声が聞こえてきそいですが、極端な低金利やマイナス金利の弊害に人々は容易には気付きません。
「住宅ローン金利が下がってラッキー」と思うかも知れませんが、貸す方の金融機関は融資をしても利益は僅かです。「金融機関の収益が下がる」という直接的な影響も然ることながら、「リスクに見合う金利が得られない」という点が最大の問題となります。
中小企業などは低金利で銀行から融資を受けようと必死ですが、貸す側からすれば、日本経済がV字回復する見込みでも無い限り、融資が回収出来なくなるリスクは金利が高かろうが安かろうがあまり変わりません。
金利が下がり続ける間はそれでも、下がった金利で借り換えて生き延びる事も出来ますが、金利がリスクに対して下限に近付くと借り換えも難しくなります。
大バブルの崩壊以降、日銀の極端な緩和政策でも日本経済が回復しなかた原因は、金利とリスクのバランスが崩れる事で銀行が企業に融資し難くなるという「低金利の罠」が発生している事に人々は無頓着です。銀行が融資しないから悪いのでは無く、銀行は融資出来ないのです。
■ 余剰資金は金利に吊られて海外に流出するか、国外でバブルを生み出す ■
この様に、ヘリコプターマネーを可能たらしめるハズの国債の低金利やマイナス金利ですが、銀行の金融仲介機能を阻害する事で、実体経済を刺激する事が出来ません。
それでも、「国民に直接(或いは間接的に)資金をバラマケば景気が回復しないはずは無い」というのがかつての三橋貴明氏らの主張です。
これは間違いでは無いのですが・・・「財政拡大」に危機感を国民は持った場合には十分に消費を刺激する事が出来ずに、資金は投資を通じて少しでも金利の高い海外に流出する可能性が高いと思われます。
又、国内の株式や不動産に資金が流れ込めばバブルが生じます。アベノミクスや異次元緩和の結果を見れば結論は出ているでしょう。そしてこれらのバブルは崩壊によって実体経済をさらに痛めつけます。
■ 財務省はヘリコプターマネーを密かに実行しているでは無いか ■
尤も、目立たない様にやればヘリコプターマネーの弊害を小さくする事は可能です。
現在の日本は日銀が新発国債の9割に相当する額を市場を通じて買い入れ、さらに国債金利も10年債までマイナスになっていますから、ヘリコプターマネーをこっそりと導入しているに等しい状況です。
老人を中心にした社会福祉費や、地方へ配られるお金はヘリコプターマネーと同じだとも言えます。ただそれをそう呼ぶか呼ばないかの違いしか有りません。
■ 既得権者と若者の格差が拡大し過ぎて崩壊するだろう ■
日銀と財務省が実行するステルス・ヘリコプターマネーですが、その継続性には疑問が有ります。
1)国債のマイナス金利にも下限が存在するであろう
2)高齢者や既得権者に優先的に配られるヘリコプターマネーによる格差が拡大する
実は今後の日本で問題となるのは格差拡大では無いのか?
自民党の政治を見ていれば、選挙対策で「高齢者と既得権者」を優遇うている事は明らかであり。「保育園落ちた」に代表される若年層への対策は後手に回ります。
既に日本の若者は結婚や育児を諦めてしまった人達も大勢います。既に取り返しの着かない人口動態になっている日本の将来には、クルーグマンも「匙を投げて」います。
今後、社会保保障費や税金の負担の不平等として隠し切れなくなり、「若者と高齢者の対立」が先鋭化するかも知れません。
「若者の老人狩り」なんてヒャッハーでバイオレンスな社会がやって来るかも知れません。そうならない為にも、高齢者の方も「逃げ切り」では無く「日本の将来」を真剣に考えるべきなのですが・・・。
人は個人の利益を最大化する為に全体の利益を顧みません。これは高齢者も若者も同様で、それ故に民主主義は間違った選択を繰り返します。
日本の官僚は優秀ですが、民主主義や資本主義が根源的に抱える「合成の誤謬」を克服する事は容易では無いのでしょう。