■ 過剰な大学と、不足する保育園 ■
「教育は国の基本」という発言を良く聞きますが、前回、前々回に書いた様に、日本の高等教育は十分に行きわたっています。むしろ過剰に供給される事で、「高等」とは言えないサービスを提供する結果となっています。
そもそも大学とは研究機関であって学校ではありません。現在の様に「学生がきちんと登校する様に教師が学生数人をグループにして指導する」なんて学校は、既に大学としての要件を満たしていません。そもそも大学は学びたい学生が自主的に通う場所であり、学ぶ意思が無い者が行く場所では無いのですから。
一方で、現在の日本で不足しているのは保育園です。共働きで育児をされた方は良くご存じかと思いますが、公立の保育園に入る事は「狭き門」です。認可保育園にすら入れないケースも多々あります。
ご存じ無い方もいらっしゃると思いますが、保育園の費用は結構高い。無認可保育園の場合、ゼロ歳児の月額費用は7万円を越えたりします。二人の子供を無認可の保育園に通わせたりすると、せっかく共働きしても母親の収入は保育園代に消えてしまいます。それでもキャリアの為の働き続けたいというお母さま方は多いのですが、子供はすぐに熱を出したりするので、途中で退職されるケースも多い。
保育園を諦めて私立の幼稚園に通わせると、今度は世帯所得が下がるのに、幼稚園の費用が園児一人当たり月額2万円以上掛かります。これは家計に大きな負担です。
■ 幼児教育の重要性 ■
一部の幼稚園では英語や漢字を教えるなど、幼児教育に力を入れています。実は幼児の学習能力は非常に高く、外国語も9歳児以下に学習させると所謂バイリンガルになり易い。(但し、幼稚園で遊びの様な英語学習では無く、外国語でコミュニケーションする環境が必要ですが)
英語も漢字も小学校や中学で勉強するのだから、何も幼児に教えなくても・・・と思われるかも知れませんが、脳の発達が著しいこの時期に脳を刺激してあげる事で、脳そのものの学習能力が将来的にも高まるのです。
勉強嫌いの大学生にコストを掛けて勉強をさせるより、幼児の脳を鍛えた方がコストパフォーマンスが圧倒的に高いのです。
■ 「こども保険」は所得再配分の一種 ■
幼児教育に補助を出す場合、大きな目的が二つある事には注意が必要です。
1) 保育園児、幼稚園児に一律に補助金を出す
小泉進一郎氏が安倍総理に提言した「こども保険」はこれに当たります。
・所得税を0.1%上乗せして財源を確保する
・保育園児、幼稚園児に一人5000円/月ずつ支給する。
・将来的には負担率を0.5%に引き上げ、支給を25000円/月を目指す
これは税金同様の「所得の再分配」に他なりませんが、所得税を払える人の負担拡大で、選択的に子育て世代の負担を減らすものです。小さなお子様が居る世代は所得はそれ程高く無いので、月額5000円の支給でも助かります。私はこれは良い制度だと思います。
2)高度な幼児教育の為に幼児教育の在り方を変える
「幼児教育」といった観点からは、低額の一律支給はほとんど意味を持たないでしょう。むしろ、これはお金の問題と言うよりは、保育園や幼稚園の教育カリキュラムの問題です。
現在、保育園の監督官庁は厚生労働省で保育は教育ではありません。子供を健全に育てる事を目的としています。
一方、幼稚園の監督官庁は文科省で、一応「幼児教育」を趣旨としていますが、実際には園児達は「お遊戯」や「工作」などをして半日を過ごします。
保育園の保育士さんや、幼稚園の教諭の方は大人ですから、教えようと思えば英語でも漢字でも算数でも幼児に教える事は可能ですが、現在は「集団生活に慣れて小学校入学に備える」事が幼児教育の目的になっています。
■ 幼児教育は難しい ■
実際に子供に英語などを教える事が可能かどうかですが、遊びだと思わせる事が出来れば、子供達は喜んで学習するはずです。しかし、実際の所は相当難しい・・・。
私の母親も教育熱心で、小学校に入学した当時、高いお金を出してカセットレコーダー付きの英語教材(LL教材)を購入しました。これが役に立ったかと言えば・・・全く役立ちませんでした。勉強嫌いの私には「勉強」以外の何物にも感じられず、脳が「イヤ」と感じたら学習効果はほとんど有りません。(カセットレコーダーはラジオのヒットソングを録音するのに多いに役立ちましたが・・。上書き録音機能が在るので、アイドルとデュエットなど録音して楽しんでいました。)
家内も教育熱心で、子供達を英語や珠算などに通わせましたが、どれも身に付いたとは思えません。むしろ彼らが自発的に始めたバスケットボールの方が上達しましたし、将来的にも人生の糧となっています。
この様に子供に学習させる事は非常に難しいのですが、一方で9歳以下の子供を外国語環境に置くと母国語として外国語を自然に習得し、さらには3つ目、4つ目の言語の習得が早くなります。
幼児教育の研究は各国盛んになっていますが、優れたメソッドを実践した国は、将来的に優秀な人材を手に入れる事になるのでしょう。
いずれにしてもツマラナイ大学に補助金を出すぐらいならば、先端的な幼児教育を研究する機関にお金を掛ける方が国家として有益でしょう。
尤も、「勉強嫌い」が居なくなる訳では無く、あくまでもトップのレベルアップの話となりますが・・・。「皆が賢い国」なんて、恐ろしくて住めません・・・。