■ 「上げて落す」「下げて上げる」・・・市場の常套手段 ■
先週の新興国危機は今に始まった話ではありません。
では、何故急にクローズアップされたかと言えば、市場が「下げる理由」を探していたから。
「上げて下げる」のは市場の常套手段です。
短期的な相場の根動きの理由など何でも良いのです。「例えばホワイトハウスで爆発が起きた」というガセネタ一つで実際に相場は大きく動いた例もあります。
「テーパリングによって新興国から資金回避が発生する」という極々当たり前の事は誰にも理解し易いので、今回はこれが材料に使われただけ。
そして、下げた市場は、上げる理由を探していますから、アメリカの四半期のGDPが好調だったという「過去ネタ」でも、株式市場は大きく値を戻す事になります。
そして、新興国経済の脆弱性は、しばらくすると忘れ去られてしまい、他のネタで又盛り上がるのでしょう。
■ 大事なことは微妙にタイミングをズラス事 ■
大事な事は、良いネタも悪いネタもタイミングを微妙にズラして仕掛ける事。
昨年の日本株の下落局面でも、大台と思われていた日経平均株価15000円を越えてさらに株価がジリジリと値上がりした状況で発生しています。
今回の株価下落もテーパリングが混乱無く始まってしばらくして皆が安心したタイミングで見事に仕掛けられています。
皆が安心しながらも、心の底では何だか不自然だ・・・そう思っている所を見事に狙い撃ちしています。
■ 緩和資金による過剰流動性が相場の動きをピーキーにしている ■
日経平均が1日で300円も動いたりすれば、一昔前なら暴落だとか暴騰などという表現も使われました。しかし、昨今の株価の値動きの幅は非常に大きいので300円位の値動きではあまり驚かなくなりました。
これはダウも同様で、大きく値を下げた後でも、市場は直ぐに平穏を取戻します。
現在の市場はジャブジャブに供給された緩和マネーが溢れています。ヘッジファンドの様に短期的な売買で利益を荒稼ぎする投資家達の資金運用額が大きくなればなる程、市場の値動きは激しくなります。
■ 本当に危機は誰も見ない様にしている ■
信用創造に依存した現在の貨幣制度は借金が先に生まれて、それを埋める様に通貨が発行されます。その意味において始めからバランスはしていないのですが、平時の経済ではその事が意識される事はありません。
定常的な景気変動こそありますが、先行する借金の相当する材が生み出される事で、経済が崩壊する事はありません。
しかし、借金を過剰に膨らめてしまった場合、通常の経済活動でそれを埋める事が出来なくなります。所謂「バブル」と呼ばれる状況です。
バブルの規模が小さい場合は、5年、10年を掛けて借金の返済が行われます。しかし、バブルの規模が大きい場合は通常の経済活動で借金を返済する事は不可能です。それこそ50年間、こつこつとバブルの清算をしなければならない・・・。
そこで、一気に借金を精算する方法として、公的資金の投入や、中央銀行の金融緩和が導入されます。リーマンショック後の世界は、これらの資金投入を大規模に行った結果、世界の経済システムは崩壊を免れました。
では、負債は無くなったのかと言えば・・・見えなくなっただけ。
借金に相当する財は元々存在しないので、価格が回復したかに見える債権や証券も「紙切れ」に等しい事はリーマンショック前と何ら変わりありません。
ただ、誰もが「王様は裸だ」と言わないだけ。それがルールなのです。
■ 次の危機が発生すれば、規模を拡大して同じ事が繰り替えされる ■
現在の新興国危機は演出された危機なので、中国でバブルが崩壊しない限り、世界経済に与える影響は限定的です。このまま世界は、本当の危機は存在しない振りをして、小さな危機と好材料を探し続けるのでしょう。
一方で、リーマンショックの様な本質的危機が表面化した場合、世界経済はリーマンショック以上に混乱するはずです。何故ならば、金融緩和で過剰に発行された通貨の信用に問題が波及する事は必至だからです。
そして通貨の価値と国債の価値は表裏一体ですから、国債市場にも動揺が走る可能性が大きい。
■ しばらくポルカでも踊ろう ■
「金融市場はいつかは崩壊する」という発言は、「いつか東京に直下型の大地震が発生する」とか「人はいつかは死ぬ」と同様な発言に近いので、真実だけれども、通常はそれを重要視する人は居ません。
「あ、そうだね。ハイハイ・・・。」というのが正常な反応です。
一方で、リーマンショックの時の様に、ひとたび構造的危機が表面化すると、人々はそれを無視出来なくなります。システム全体の信頼が一瞬で損なわれるのです。
ただ、いつも地震を怖がって家から出なければ人が死んでしまうのと同様に、次のシステムミックなリスクが顕在化するまでは、市場じゃ日々の値動きに一喜一憂します。
こうしてポルカを踊り続けている間は、本当の危機から目を逸らす事が出来ます。そして市場で成功する人は、人々が危機に恐れている間にリスクを取り、人々がポルカに浮かれている間に次の危機の到来を嗅ぎ分ける人なのでしょう。
こんな人は数少ないので、1割が得をして9割が損をする世界なのでしょう。
尤も、経済システム自体が崩壊してしまえば、勝者が誰かも分からなくなりますが・・・。