■ミツバチが消えているって本当■
二ヶ月前くらいのニュースでしょうか、
「ミツバチがいなくなって農家が困っている」という報道がありました。
ミツバチ不足は深刻で、開花期を迎えたリンゴやナシの受粉に影響が出ているとか。
千葉県では、これから開花を迎えるスイカの受粉に充分なハチが集まらないとか。
政府は緊急にオーストラリアとアルゼンチンから蜜蜂の輸入を検討するとの事でいした。
リンゴの受粉って、農家のオジサン、オバサンが梯子に登って、
耳掻きの綿毛みたいなフワフワが付いた棒で、
開花した花に一つ一つ花粉を付けていくのではなかったんだ・・。
昔はTVのニュースで良く見かけた光景だけど・・。
■「ハチはなぜ大量死したのか■
そんなニュースが気になって本屋で見つけた本がこれ。
「ハチはなぜ大量死したのか」・ローワン・ジェイコブセン著。
イヤー、びっくりしました。
現代の大規模農業にとって蜜蜂は不可欠な存在だったんですね。
それも野生の蜜蜂では無く、養蜂家が大量に飼育している蜜蜂が。
■花が実を付ける為には昆虫が必要■
花の咲く植物の多くの種類が、自家受粉をしません。
同種の他の花の花粉に受粉しないと、実がなりません。
この受粉作業を昆虫達がせっせと行っています。
蜜蜂やハナ蜂、小型のカミキリムシやハナムグリ、蝶や蛾の仲間。
植物は花粉(蛋白室)や蜜(糖分)を昆虫に提供して、
その見返りに昆虫は体中に花粉をくっつけて、花から花へと花粉を運んでいきます。
この、共同の営みは実に巧みに構成されていて、
植物は同じ種類の花に選択的に花粉を運ばせる為に、
ある種の昆虫だけが蜜や花粉の得られるように花を進化させて
受粉確率を高めるような事もしています。
■蜜蜂と人との係わり■
様々な受粉昆虫の中で、人間が古代から蜂蜜を採る為に飼育しだしたのが蜜蜂です。
蜜蜂の祖先は木の「うろ」の中に巣を作っていました。
古代の人や、動物にとって蜂が蓄えた蜂蜜はご馳走です。
ですから、古代の人間は、蜂に刺されたり、木から落ちるような危険を冒しても、
蜜蜂の巣を手に入れようと必死でした。
養蜂には8000年の歴史があります。
紀元前900年の遺跡からは人口の巣も見つかっています。
麦わらと粘土を木の穴の代替た巣です。
蜜が溜まったら、巣を壊して蜜を取り出します。
しかし、この方法では、蜜を採る度に、巣が壊れてしまい、
蜂たちは又苦労をして巣を作り直す必要がありました。
この間は蜂蜜の収量も減ってしまいます。
■近代養蜂の始まり■
1851年、ロレンゾ・ロレイン・ラングストロス神父は
木箱の中に平板を幾層にも重ねた近代的な養蜂箱を考案します。
この箱は、蜂の巣を壊す事無く蜂蜜を採取でき効率的でした。
そして現代にいたるまで、ほとんど姿を変えずにこの箱が用いられています。
さらに、第一次世界大戦の最中、イタリアで発見された蜜蜂の系統は、
性格が温厚で、勤勉で蜜の収量も多い事から、
瞬く間に世界中にこの蜜蜂の系統が広がって行きました。
■現代の養蜂■
現代の養蜂家は何万箱もの巣箱を擁して、
トレーラに巣箱を積み込んで、
花から花を追いかけて北米大陸を縦断するような、企業化した養蜂が主流です。
中国産の安い蜂蜜が市場に出回るようになってからは、
養蜂家の仕事は蜂蜜販売よりも、農家お受粉作業に重点が移ってきます。
アーモンドやブルーベリー、クランベリーなどの開花期に合わせ、
農家に蜂の巣箱を貸し出すのです。
アメリカの農場は規模が大きく、見渡す限りのアーモンド畑などが広がっています。
当然、従来そこに生息していた昆虫を根絶やしして畑を作ります。
当然、受粉昆虫が不足して、収穫が思うように上がりません。
そこで養蜂家の出番がやってきます。
トレーラーに巣箱を積んで、畑に乗りつけます。
何百、何千という巣箱の蜜蜂たちは、一斉に畑に飛び出して行きます。
どの花にも蜂が留まっている様な密度で、一気に受粉作業を行います。
現代の大規模農業は、この大量の蜜蜂無くしては成り立たないのです。
■蜂の受難■
ところが、蜜蜂達に受難が訪れます。
東洋蜜蜂の害虫であるミツバチヘギイタダニというダニが
セイヨウミツバチの巣箱に進入してしまったのです。
このダニは蜂に吸い付いて体液を吸い取ります。
養蜂家達はダニ退治の為に殺ダニ剤を巣箱に投入します。
ダニは減りますが、ミツバチも少なからずダメージを受けます。
さらに、数種類のウィルスが巣箱を襲います。
そして、受粉作業に畑に駆り出された蜂たちを、
近代的な農薬や、遺伝子組み換え作物の殺虫成分が襲います。
そして、受粉作業のスケジュールに合わせて、冬眠も途中で切り上げられ、
トレーラーで長距離を移動する日々・・・。
現代の蜂たちは、多くのストレスを抱えて生活しています。
■決定的な崩壊・・・原因不明の蜂の失踪■
2006年11月にアメリカの養蜂家、ディブ・ハッケンバーグは異変に気づきます。
蜂が巣から消えてしまったのです。
女王蜂と少数の蜂たちを残し、殆どの蜂が巣から失踪してしまいました。
そんな巣箱が、6割から8割に達しました。
しかも、蜂達の死体は見つかりません・・・。
そして、そんな現象がアメリカの養蜂家のい間に蔓延していきます。
蜂群崩壊症候群(CCD)と名付けられてその現象は
アメリカの養蜂家に壊滅的な被害をもたらしました。
そして、CCDは全世界に広がって行きます。
■諸説入り乱れるも、原因は不明■
ウィルス説、携帯の電磁波説、農薬説など諸説入り乱れた論議と原因追求が成されます。
しかし、原因は未だに分かっていません。
一つの原因では無く、複合的な原因なのかもしれません。
養蜂家達もいろいろと努力をしましたが、
結局蜂達は帰って来ません。
今では、蜂はとうとう使い捨て状態になってしまいました。
オーストラリアから女王蜂を輸入し、蜂を増やした後、畑で受粉作業を行わせ、
疲弊した蜂の何割かはCCDで消えていく。
■新しい養蜂の試み■
新しい試みも成されました。
イタリアとは系統の異なるロシアの蜜蜂の導入を試みた者もいます。
しかし、ロシアの蜂は気まぐれで巣別れしてしまうので、管理が困難で、
多くの養蜂家があきらめています。
ただ、カーク・ウェブスターは根気強くロシアの蜂の改良を試み、
ダニに強い系統を作り出しています。
また、従来の巣箱に疑問を持った者も居ます。
従来の巣箱の巣房の大きさは単一です。
しかし、野生の蜜蜂の巣房の大きさは3種類あります。
蜂は季節に応じて、異なる大きさの巣房で子育てをし、
エサの量や、気温などの環境に適応した働き蜂を育てていました。
巣房の大きさを変えると、セイヨウミツバチもダニを駆除する行動を始めます。
この様に、効率優先の近代養蜂が切り捨ててきた、
ある種の「複雑系」を、養蜂の中に取り戻そうという動きが効果を出し始めています。
蜂糞崩壊症候群を終焉させるには、
農業を含めた我々の効率重視のシステムの変革が求められているのかもしれません。
■現代の「沈黙の春」■
この本は、農薬の恐ろしさを人類に警告した
レイチェル・カーソンの「沈黙の春」に匹敵する素晴らしい本です。
先ず、自然や生態系に対する尊敬の念に溢れています。
小さな蜂達にたいする愛情にも満ちています。
そして、養蜂家と共に、その作業を手伝いながら、
じっくりと彼らの置かれた立場と現代養蜂の問題点にせまっていきます。
花と昆虫の密やかな繋がりを知るだけでも、
この本を読む価値があります。
学術書の様な堅苦しさは一切ありません。
ただ、自然を愛する著者が、「なぜハチたちは消えてしまったのか」を知りたくて、
地道に調査した結果を、私達は良質なミステリーを読むように楽しむ事が出来ます。
お勧めの一冊です。