■ ギリシャがデフォルトの危機 ■
人は忘却の生き物です。
リーマンショックであれだけ世界が震撼したのに、昨今のニュースは米景気の回復を報じるものばかりでした。私の両親なども、「金融危機は今まさに破綻に近付いているから、貯蓄の逃避を検討した方が良いよ」と言っても信じてくれません。それどころか、父などは息子は気でも狂ったかと思っているようです。
老人に限らず多くの人々が金融危機は過去の出来事だと考えています。多くの国が財政出動した事で、金融危機の最悪期は脱したと考えています。
しかし、ギリシャを始めとするPIGS諸国のソブリン危機で、楽観論も影をひそめてきました。世界はギリシャがデフォルトするかを見守っています。そして、ファンドは収穫の時を虎視眈々と狙っています。
格付け会社のS&Pは、狙い打つかの様にこの時期を選んでギリシャ、ポルトガル、スペインの国債の格付けを引き下げました。引き下げるならばもっと早期にすべきだったのに、最悪のタイミングでの引き下げは危機を煽っている様にしか見えません。
■ 会う時はいつも別な顔 ■
危機は毎回同じ姿で現れる訳ではありません。
サブプライムローンに端を発した流動性の危機は、今度は流動性を供給した国家の財政危機(ソブリン危機)の形を取って再燃しました。民間の借金を国の借金に付け替えた訳ですから、これは当然の成り行きと言えます。
ギリシャがデフォルトするかどうかはユーロ諸国の「ユーロを守る」という決意に掛かっていますが、ユーロの制度設計の中に今回の危機が予め組み込まれていた事を考えると、ギリシャ1国を救済しても問題の解決にはなりません。
ユーロ諸国はその事を充分理解していますから、口先では救済と言いながら、なかなか行動には出れません。国民も自分達の税金が「怠け者国家」にプレゼントされるくらいなら、喜んでユーロの離脱を選択するでしょう。特に経済基盤がしっかりしたドイツやオランダは、ユーロと心中する理由が見つかりません。
ロスチャイルドの本拠地がドイツやフランスやスイス、オランダである事を考えれば、ユーロは夢の通貨では無く、破滅の装置として設計されていた可能性も充分考えられます。そして今まさにユーロの破壊のスイッチが押されようとしています。
■ カリフォルニアは世界8番目の経済規模 ■
ギリシャ一国で世界は大騒ぎしていますが、ギリシャの経済規模なんて知れたものです。一方、アメリカに目を転じれば事実上財政破綻しているカルフォルニアの経済規模は世界第8番目の国家に匹敵します。カルフォルニアは昨年デフォルトを避ける為、「借金支払いの延期覚書」のような物を発行して急場を凌ぎましたが、財政状態は悪化こそすれ改善はしていません。
アメリカにや州や群や市のレベルで、夕張市以下の財政状態の自治体がゴロゴロしています。そして、それらの集合体が「アメリカ合衆国」です。
■ アメリカ国債危機を隠すユーロ危機 ■
先日10年もののアメリカ国債の利率が、民間の利率を上回るという珍事が発生しました。国家の信用が民間の信用を下回ってしまったのです。AAAの国債の実体がジャンク債に近付いている事の現れです。
しかし、ギリシャ危機に端を発したユーロ危機は、アメリカ国債やドルに資金需要を向かわせ、アメリカ国債の危機を覆い隠してしまいました。
経済とは相対的なものですから、穴の開いたボートと知りながらも、なるべく穴の小さなボートを選んで資金は逃避して行きます。尤も逃避した先がタイタニック号だったりするのですが・・・。穴の開いた救命ボートなら穴を塞げば助かりますが、氷山に激突して大穴の開いたタイタニックは冷たい海の底に沈むしかありません。それでもタイタニックの船上では夜な夜な華麗なパーティーが繰り広げられています。
■ 死亡確定の患者の延命治療 ■
世界のデリバティブ取引の残高は605兆ドル(5京6兆円)。これは返済不可能な金額です。
605兆ドルもの金額を誰が貸し付けたかと言えば、元を正せば各国の中央銀行です。日本の低金利の資金は国内市場には出回らず、キャリートレードの形でバブル膨張に一役買いました。景気良くばら撒かれるドル紙幣やアメリカ国債も、バブルを成長させました。
この間各国の中央銀行は、通貨供給量を絞ってバブル崩壊を事前に抑制する必要がありましたが、中央銀行は国内のインフレ率ばかりに気を取られているふりをしてバブルを無視し続けました。
1637年オランダでチューリップ・バブルが発生ました。チューリップの価格が100倍以上高騰した、世界最初のバブルです。しかし、チューリップの価格が高騰しても市民の生活にはたいして影響はありません。同様に資産バブルが膨らんでも消費者物価に与える影響はそれ程大きくありません。中央銀行から潤沢に供給される資金は砂に染み込む水が如く、バブル市場に吸い上げられていきました。
これが中央銀行がバブルを防げないと言われるカラクリです。
・・・いいえ、グリーン・スパーン元FRB議長は明らかに住宅バブルを助長する言動を繰り返していました。
さて世界は605兆ドルの負債にあえいでいますが、はっきり言ってこれは死亡確定状態です。助かる方法を発明したら、ノーベル賞級の経済的発見です。
現在世界は死亡確定の患者に延命治療を施しているに過ぎません。ユーロ危機も普天間問題も問題の本質から目をそらさせているに過ぎません。
ドルとアメリカ国債こそが諸悪の根源だと世界が本当に理解した時、ドルとアメリカ国債こそが尤も危ない資産であると理解した時こそ、世界が音を立てて崩れ去る時です。
■ 資産保全の方法はあるのか? ■
ドルとアメリカ国債の崩壊は、最終核戦争に近い効果を経済にもたらします。多分、日本も預金封鎖からハイパーインフレという制御し難い状態に追い込まれるでしょう。
国家が破綻する状態ですから、資産も接収される可能性があります。国債のデフォルトです。あるいは、ハイパーインフレによる事実上の借金棒引きです。
銀行も郵便局も生命保険も大量に日本国債を所有する状況にあって、国民の資産を保全する方法は見当たりません。預金残高と国債発行残高がバランスしているのですから、消える時は双方綺麗に消え去ります。
問題はそれが5年後なのか、それとも明日なのかという点です。
■ 破綻の発生は交通事故と同じ ■
国家破綻の様な事態では普通では発生しません。しかし国家破綻が皆無という訳ではありません。経済の状態や世界情勢によって、ある確率では絶えず国家破綻の危機は存在します。それが、国債発行残高がGNPの185%の日本では、それなりの確率で起こりうると考える事の方が合理的です。
国家破綻も交通事故も似た様な物です。車はルールーに則って運転されていれば、滅多な事では事故を起こす事はありません。(意図しない急加速は別ですが)
しかし、交通規則や道路の作り方が100%事故が発生しないシステムで無い限り、事故の起こる確率をゼロにする事は出来ません。
酔っ払い運転や居眠り運転、老人や子供の急な飛び出しなど、不測の事態はいつ起きるか分かりません。要は事故はルールを守らない者が引き起こします。
現状の世界は、車間距離をほとんど取らずにかなりスピードを出して、さらにヘッドライトを点けずに夜道を運転している状況に似ています。いつ、事故起きても不思議ではありません。
ギリシャのちょっとした接触事故に気を取られていると、アメリカあたりで大クラッシュが起きるかもしれません。意外と日本の老人の飛び出し事故だったりするかもしれません。
「当たり屋」にも注意が必要です。特に暗闇で"Yes we can"なんて呟いている人物には要注意!!