■ 年金制度を維持する事は簡単だ。払わなければ良い ■
安倍首相が打ち出した雇用を70歳まで延長するプラン。理由は年金制度を維持する為です。段階的に雇用期間が70歳まで延長されますが、これによって現在65歳の年金受給開始年齢を70歳まで引き上げる事は確実です。
現在は原則として65歳が年金受給開始年齢ですが(特別受給で60歳からでも受給可能)、以前は60歳が受給開始年齢でした。
受給開始年齢を政府は段階的に60歳から65歳に引き上げましたが、その過程で定年後65歳まで希望者の雇用を継続する様に企業に義務付けています。給料は半額程に下がりますが、これは事実上の定年の65歳延長です。
企業は社員の厚生年金や健康保険の半額を負担していますから、社会保険制度を維持する為にも、定年の事実上の延長は、政府にとってメリットが大きい。
政府や厚労省は依然より「年金制度は崩壊しない」と主張し続けて来ましたが、受給開始年齢を引き上げれば年金受給期間が少なくなる為に、確かに年金制度は形式的には維持されます。
但し、60歳から年金を受給いている世代、65歳から受給している世代、70歳から受給す世代の間での世代間格差は、どんどん広がっています。
男性の健康年齢は72歳、女性の健康年齢は74歳ですから、男性諸氏は70歳まで仕事をつづけた場合、「楽しい老後」は2年程度しか残っていない可能性が有ります。
60歳で年金を受給していた世代が10年以上も老後を満喫していた事を思うと、「怒髪天」となってもおかしく無い。
■ 雇用を70歳まで延長する事に国民は意外と好感を持っている ■
さぞや皆さん、70歳まで働く事にお怒りかと思い、仕事でお会いする様々な方に、それとなく話題を振ったのですが、意外に皆さん「好感」している事に驚きました。
TVのインタビューなどでも、70歳雇用延長を好感している意見が多く、これは私の周囲の方々の意見と同様です。
何故、皆さん、雇用延長を好感するか考えてみました。
1) 現在のままでは年金制度を維持出来ない事を確信している
2) 雇用が70歳まで補償されているのなら、年金受給開始を70歳に延長して
年金制度を維持さた方が将来的な不安は少ない
3) 健康年齢が伸びているので老後暇にしているよりは働きたい
だいたいこんな感じでしょうか?
■ 非正規雇用と正規雇用の間の格差が絶望的に拡大する ■
一見、皆なハッピーとも思える70歳雇用延長ですが、メリットがあるのは正規雇用の方に限ります。
現在4割を超える非正規雇用の方にとっては70歳まで(65歳)まで年金を貰えない事は「死ね」と言われるに等しい。
企業にしてみれば、70歳まで雇用を継続する事は、政府の社会保障を民間が肩代わりする事に等しい。要は単なる「負担」に過ぎません。
確かに人手不足で経験者確保という目的は有りますが、65歳過ぎの人間の能力低下は相当なものが有ります。忘れっぽくなりますし、集中力や体力も低下します。不測の事態への対処能力も、判断力も著しく低下します。
65歳程度までは現役時代と同じ職種をこなせますが、65歳以上となると、それなりに簡単な仕事、例えば従来は非正規雇用の方が行っていた仕事が彼らに任される。例えば警備や配送管理などの仕事がそれに当たるでしょう。
こうして、正社員の定年延長によって、従来非正規社員が行っていた仕事が減ります。それも簡単な仕事から消失するので、スキルの無い非正規雇用の仕事が減少します。
年金を払いたくとも仕事が無く、65歳までは年金も無い…生活保護に頼らざるを得ない人が増えていくはずです。
さらに若年労働者の市場は外国人労働者と奪い合いになる為に、こちらも賃金が低下します。
■ 社会保障維持の為に絶望的に格差が拡大する日本 ■
今回の70歳まで雇用を延長する案ですが、結果は「世代間格差」と「正規雇用と非正規雇用の間の格差」を絶望的なまでに拡大します。
国民は未だその事に気付いてはいませんが、政治的には「既得権者である高齢者や正規雇用」の方は選挙にも積極的に参加して既得権を守り、「弱者」は選挙にすら行かないので、この絶望的なシステムはしばらくは維持されるでしょう。
しかし、気付いた時には年金受給資格も無い大量の高齢者を国が抱える事になり、生活保護などの社会保障や医療制度が崩壊を始めるハズです。
こうなると、流石に「持たざる者」も「一票を行使」する様になり、日本の政治は「持つ者 VS 持たざる者」の対立の構図となるハズです。
数的には圧倒的に「持たざる者」が多いハズで、彼らの要求を満たす為に政府は財政を拡大せざるを得ず、こうして日本の財政赤字は急拡大し長期的に日本は財政破綻に追い込まれるハズです。
尤も、それを待たずとも、異次元緩和の元、政府が財政赤字を拡大し続ける現状、世界的な「債権危機」が発生すれば、現在の「無限国債」というモラトリアムは崩壊するのでしょう。
<追記>
本日の記事にご高齢の方はご立腹かと思いますが、下のグラフを見て下さい。年金、介護、医療世代別損得を表すグラフですが、若年世代の悲惨さが一目瞭然かと思います。さらに年金受給開始年齢が70歳まで引き上げあられると、若年者の「損失」が拡大します。
この様な「不均衡」は本来予測される次点で解消されるべきですが(日本では1980年代がラストチャンス)、選挙で不利になる改革は日本では行われずに今に至ります。
但し、不均衡が長続きする例は少なく(暴動が起きる為)、最後な何等かの切っ掛けで強制的にリセットされます。若者の政治意識の低い日本では「暴動」や「政変」では無く、「財政破綻」がその最有力候補である事は確かです。
少子高齢化の低成長によって生まれるゼロ金利が、日本の財政負担を軽減していますが、今後は「ヨーロッパ病」と呼ばれたかつての欧州の様に、成長率の低下がジワジワと進行し、円の価値が低下する事で、悪いインフレが進みます。
はたしてゼロ金利の国債に金融機関が耐えられるのか・・・地銀から崩壊は既に始まっています。
国内の年金制度を多少変更した所で、国家が衰退すれば、今の生活水準を維持する事は難しいのです。だからこそ、若い世代に夢とやる気を持たせる政策が必用な訳ですが、将来的にはやる気る若者が国外に逃げ出す事も予想されます。上のグラフの示す未来とは、そういう未来なのです。
<追記2>
実は世代間の格差が顕著になるのは、現在の50代が年金を受給する頃かと。この世代は第二次ベビーブームで人口が多い。そして、この世代から以降、結婚をしなかったり、子供を作らない選択をした人達が増えています。
要は、自分達の将来を担う子供達を十分に作らなかった世代です。
実は「世代間格差」の問題は、現在の50代の私達自身の問題なのです。自衛策は70歳、或いは75歳まで働ける体力と気力を保つ事。「運動」と「アニメ」ですね!!