■ ボストン風クラムチャウダー ■
久しぶりに「めしテロ」ネタ。
上の写真は皆さまご存じの「クラムチャウダー」です。
「アメリカのメシは不味いけど、ボストンのクラムチャウダーは別。」という意見を良く聞きます。クラムチャウダーとは「クラム=二枚貝」が入ったトロミのあるスープですが、ボストンなどニューイングランド地方では一般的に知られているクリームシチュー風。ニューヨークではトマトが入ったの赤いスープ。
日本ではアサリで作るのが一般的ですが、実は本場ボストンのクラムチャウダーウダーは「ホンビノス貝」を使って作るらしい。これが、アサリとは別格の美味しさなのだとか。
■ ホンビノス貝はみ身近な海に居る ■
「ホンビノス貝?・・・そんな貝、日本で手に入るの?」「高級食材じゃないの?」と思われるかも知れませんが、私の住む浦安にはゴロゴロ居ます。
ホンビノス貝は北米原産の二枚貝ですが、船のバラスト水に稚貝が紛れ込んで東京湾に侵入しました。
浦安市、市川市、船橋市の沿岸は「三番瀬」と呼ばれる遠浅の海が広がっています。水深が1m程で、底はドロや砂地。ここにアサリやゴカイなどの底生生物が沢山生息しており、それを餌にする魚の良好な漁場で「江戸前」の魚介類の供給地となっています。特にアサリ漁は盛んで豊富な水揚げ高を誇っていました。
しかし、ここ20年程、アサリなどの漁獲が減少する一方で、漁師たちが見た事も無い大きな貝が大量に獲れる様になります。最初のうちは漁の邪魔者扱いして捨てていましたが、行徳の漁師が食べてみたら美味しかった。そこで品種の判定を依頼した所、ホンビノス貝である事が判明します。北米ではクラムチャウダーの具材として、あるいはレモンを絞って生で食べられている事も分かりました。
市川や船橋の漁協ではは減少するアサリなどの代替えとして市場にホンビノス貝を出荷し始めますが、大きくて、灰白色で、ズングリとした貝はなかなか受け入れられませんでした。しかし漁協のPRや、地元の料理店がメニューに加えるなどして、ここ数年で知名度もグンと高まりました。船橋市では、「特産品」として販売に力を入れています。
■ 汚染に強いホンビノス貝 ■
実はホンビノス貝が東京湾で大繁殖したのには理由が有ります。それは「汚染」や「低酸素」にメチャクチャ強いのです。ビノス貝属のビノスはビーナスの意味ですが、繊細な名前とは真逆で、生命力はとても強い。アイルランドで見つかったビノス貝の一種は個体動物の中では最高齢の507歳でした。当然、大きさも巨大になります。東京湾で獲れるホンビノス貝も大きなものは10cmを越えます。
東京湾では人口増加や工業化の影響で海水の汚染が進んでいます。海の富栄養化によって暖かな時期にはプランクトンの大発生による赤潮が度々発生します。海中の酸素をプランクトンが消費してしまう為に酸欠で魚介類に被害が出ます。
赤潮よりも怖いのが青潮です。遠浅の東京湾奥では海水の循環によって海底でも酸素の供給は豊富です。しかし、船の航路の部分は深く掘られていて、この底の部分は循環が乏しく有機物の分解で酸素が消費され低酸素の水が溜まっています。嫌気性細菌が繁殖して大量の硫化水素を発生させます。強い風が吹くと表層の海水が風で運び去られ、低酸素の海水が上層に浮かび上ってきます。この低酸素の海水が「青潮」の原因です。
青潮の時は海が透明になります。一見、エメラルドグリーンの美しい海に見えますが、硫黄酸化物のコロイドによって海が青く見えるだけで、周囲には硫黄の匂いが充満します。海水は低酸素と硫化物の二重攻撃で、まさに「死の海」となり、アサリなどが全滅します。
ところが、ホンビノス貝は、赤潮や青潮にもビクともしません。冷蔵庫の中で乾燥した状態で1週間も生き続けると言われていますが、お台場海浜公園や京浜運河など、ヘドロで汚れた海底にも生息できてしまいます。さらに、殻が厚くて丈夫なのでツメタ貝などのアサリの天敵もホンビノス貝を捕食出来ません。こうして、東京湾の奥部でホンビノス貝が大繁殖しているのです。
■ 浦安三番瀬でホンビノス貝をゲットせよ!! ■
浦安市の市川寄りの護岸は三番瀬に接しています。大潮の干潮時には、砂浜が沖合まで広がり、天然のアサリやバカガイやマテガイを潮干狩りで獲る事が出来ます。
我が家も子供が小学生だった10年以上前は、春には何度も潮干狩りを楽しみましたが、子供が成長してはらはすっかりご無沙汰しています。噂では東日本大震災以降、地盤が沈降して干潮でも砂浜が出なくなったとも聞きます。
ネットで調べてみると、最近は皆さん、潮干狩りを楽しんでいる様なので、5月2日の大潮の日に、一人、自転車にバケツを積んで、熊手を持って出かけてみました。以前は県の企業庁が管理する土地で、立ち入り禁止のフェンスを乗り越えていましたが、今は護岸沿いに遊歩道が整備されています。
「貝の獲り方の注意」という掲示が有るので、潮干狩りは禁止されていない様です。浦安は埋立に際して漁業権を放棄していますから、漁師に怒られる事が無いのでしょう。ただ、下水処理場からの水が流れ込むので衛生的には心配ですが、船橋海浜公園に比べれば浦安の方が余程キレイなのでOK。特に、埋立地の先端の方は、キレイな海水が循環しているので、汚染を嫌うツメタ貝も沢山居ます。
春の大潮は潮位が低いので、以前は大きな砂地が海面から出ていましたが、やはり震災の影響か砂地の露出を少な目。そんな狭い砂地は貝が掘り尽くされているでしょうから、膝まで水に浸かる場所を熊手でさらいます。
■ 「獲れる潮干狩り」程楽しいものは無い ■
潮干狩りで沢山貝をゲットする為には、ちょっとしたコツが要ります。
1) 貝は居る所には居るが、居ない所には居ない
2) 人が掘った後には当然居ない
3) 一か所をひたすら掘っても居ない所には居ない
4) 居る所を探して移動しんがら掘るのが基本
5) 1匹居る所には、沢山居る可能性が高い
6) 海底の柔らかい場所は誰かが掘った後の可能性が高い
7) サンダルの底に硬い感じがする海底を掘るとゲットする確率が高い
これが、私の長年の潮干狩り人生?で学んだノウハウです。それでも、三番瀬でアサリをゲットするのは容易ではありませんでした。
ところが・・・ホンビノス貝は・・・ボコボコ獲れる。
1平方メートルに100匹生息していたとの報告も有る様で、1時間半でバケツがイッパイになりました。これ以上獲っても食べきれないので、早々に撤収します。
■ 戦果報告 ■
1時間半の収穫は、ホンビノス貝76匹。大きさは6cm前後で、大ぶりのハマグリ程度。
小型の赤貝の一種のサルボウガイも27個獲れました。味は赤貝とほぼ同じ。但し、大きくても5cm程度なので、刺身には向きません(東京湾の奥で獲れた貝を刺身にする勇気も有りませんが)。赤貝と同様に血液中にヘモグロビンを持っているので、人間と同じ様な血が出ます。当然、酒蒸しにすると、どす黒い煮汁が出る・・・。そこで、これは「しぐれ煮」の様にして食べます。これは美味で酒が進みます。ご飯も何膳もお代わり出来ます。
■ ホンビノス貝を美味しくいただく為に必須の、「モヤ抜き」と「殻洗い」 ■
ホンビノス貝は砂を噛みません。だから、直ぐに食べられるという人も居ますが・・・・チッチッチ!!
実は下処理のしていないホンビノス貝は「ドブ臭い」
これは、消化管の内容物がそれなりに「臭い」のと、硫化物の多い海底に生息していた固体は殻が硫化して硫黄臭がするから?その匂いが調理の時に身に移ってしまうと私は推測します。
ホンビノス貝の名人達は「モヤ抜き」という作業を念入りにします。これは、貝を一晩か二晩、塩水に入れっぱなしにして、消化管の内容物を吐き出させる作業です。これはアサリの砂抜きと同じ方法です。
貝は獲った場所の海水で一番活発にモヤを吐きます。(アサリの場合は砂を吐く)。そこで始めは海水中に入れて暗い所に置きます。大量に獲った場合や、気温の高い場合は鑑賞魚用のエアーポンプで酸欠にならない様にします。
こうして4時間も放置すると、海水の底には黒いモヤモヤが沢山溜まり、水もなんだかヌルヌルしてきます。このまま一晩放置しても良いのですが、私は3%の海水を作って水を入れ替えます。
この時、貝の表面をブラシでゴシゴシ擦って、汚れと、硫黄の匂いを少し取っておきます。
一晩経った後の塩水の底には貝の「ウ〇コ」が少し溜まっています。
面白いのは、一晩すると黒かった殻の表面が白くなって来ます。これは黒卵と同様に殻のカルシウムが硫化して黒くなっていたものが、脱硫したのだと思います。殻の硫黄臭も軽減されています。
そこで、貝を取り出してブラシで再びゴシゴシ、さらに貝と貝を擦り合わせて、表面を削る様に入念に洗います。クンクンして硫黄の匂いがほぼしなくなったら洗い終わり。この工程を省くと・・・多分、調理した時にドブ臭くなります。
■ 「虐待」によって美味しくなる ■
洗い終わったら調理しても良いのですが、もう一手間掛けるとさらに美味しくなるそうです。それは貝を「虐待」する事。
正確には水から上げて、天日で半日から1日干すのです。貝にストレスを掛ける事で、貝の体内のグリコーゲンが分解され、うま味成分のコハク酸が生成され、うま味が増すのです。ホンビノス貝は水が無い所でも、冷蔵庫の中ならば一週間は生きているらしいので、1日程度の天日干しで死ぬ事は有りません。
■ いよいよ、クラムチャウダーを作るよ ■
ボストン風クラムチャウダー 2~3人前
材料 5~6センチ程度のホンビノス貝10匹程度
玉ねぎ 中 1個・・・ミジン切
ベーコン 4~5枚・・・1cm角切り
ジャガイモ・・・中2個・・・1cm角のサイの目切り
白ワイン・・・50~100CC
バター・・・大サジ1
小麦粉・・・オオサジ山盛り1
牛乳 ・・・500~600cc
ローリエの葉・・1枚
パセリ・・・・・微塵切り 少々
塩、コショウ
今回は4~6人前を作るので20ビノスを投入
熱した鍋に貝を入れ、白ワインを注いで蓋をして強火にします。アサリと違い、なかなか開きません。
コツン!と貝が開いた音がしたら、開いた貝から別の皿に移して行きます。開く時間に結構差があるので、全部開くまで待つと、最初の頃に開いた貝の身が硬くなります。貝は皿に取り出した後、余熱で十分に火が通ります。煮汁は取っておきます。
貝の身は結構大きいので、2つから4つ程に切り分けます。ハラワタの黒い部分を取る人も居ますが、ここに磯の香りが凝縮しているので私はそのままにします。(充分モヤ抜きしたので大丈夫でしょう、但し、貝毒が出やすい暑いシーズンは黒い部分は取った方が無難)
鍋にバターを入れ、溶けたら玉ねぎのみじん切りを弱火でじっくり炒めます。
玉ねぎが甘くなったら、ベーコンを入れ、油が出るまで炒めます。
次に小麦粉を入れ、弱火で焦がさない様に良ーく炒めます。
火を止め、冷たい牛乳を入れて、ダマにならない様に良くかき混ぜます。
ダマになった場合は、柄付の網などで裏ごしの容量でダマを潰します。
ジャガイモを投入して、弱火でじっくりかき混ぜながらジャガイモが柔らかくなるまで煮ます。
トロミが出て、ジャガイモが煮えたら、貝の身と、煮汁を投入して火を止めます。
貝の煮てしまわないのが柔らかく仕上げるコツ。
本場、ボストン風のクラムチャウダーの完成です。アサリより、身の食べ応えがあり、貝の香りも濃厚です。これは絶品かも。
ちょっと見た目は「アレ」なホンビノス貝ですが、しっかり下準備をして「モヤ」と「硫黄臭」を抜けば、絶品料理に早変わりです。
■ 他にも試したみたよ ■
ホンビノス貝のイタリアンパスタ
オリーブオイルでニンニクを炒め、ホンビノス貝を投入した後に白ワイで蒸します。蓋をして開いた貝から取り出します。殻が大きいので、何枚かを残して殻を外します。
上の煮汁に缶詰のカットトマトを入れて煮詰めます。塩、コショウ、バジル、タイム、オレガノを適量。赤唐辛子を入れてもOK。(貝の煮汁に塩味が着いているんで、塩は少な目に)
出来上がったトマトソースに、貝とアルデンテに茹でたパスタを投入して良く絡めます。皿に盛ったらイタリアンパセリを散らして完成。(今回は普通のパセリですが)
身の食べ応えが有りますが・・・私はアサリの方が好きです。ちょっと大味かな。
ホンビノス貝の中華風酒蒸し
中華鍋にごま油を入れて熱し、ニンニクとショウガのみじん切りを良く炒めます。長ねぎのみじん切りを投入して炒め、そこにホンビノス貝を投入。紹興酒を入れて強火で蓋をします。
貝が開き始めたら、開いた貝から皿に取り出します。
煮汁に少し水を加え、テンメンジャンを少々入れて煮立てたら、貝の上から掛けます。最後にネギのみじん切りか、チャンサイの刻んだものを散らして完成。
これは絶品です。ジューシーな貝が、大ぶりのハマグリの様な味と歯ごたえ。ホンビノス貝特有の匂いも感じません。
ホンビノス貝の味噌焼きと、タイ風焼き
グリルで貝の口が開くまで焼きます。口が開いたら、上の殻を外します(ヤケドに注意)
味噌焼き・・・・・ミソと味醂と酒を混ぜたものを塗る。ネギのみじん切りを載せる
2~3分程グリルで焼く。
タイ風・・・・・・ナンプラー少々にテンメンジャン少々を混ぜたものを塗る。
2~3分程グリルで焼く。
食べる直前にチャンサイを散らす。
ハッキリ言います。これが一番、濃厚な貝の味がして美味。そして一番手軽。
日本酒や白ワインが進みます!!
という訳で、ゴールデンウィークは「縄文人」になって、狩猟採取グルメを満喫しています!!