■ 「ゆうちょ銀行」と「かんぽ」が外債運用比率引き上げを予定 ■
<ロイターから引用>
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL4N0VK3PX20150210
[東京 10日 ロイター] - 日本郵政が10日発表した4─12月期決算で、傘下のゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の運用資産について、国債の構成比が減少していることが分かった。「長期金利の低下で、満期が来たものを待機資金や一部外国証券に振り替えた」(幹部)という。
2014年12月末の運用残高に占める国債の割合は、ゆうちょ銀が3月末の63%から53.5%に、かんぽ生命は同60.3%から57.7%に低下した。ゆうちょ銀の国債保有残高は109兆8856億円となり、9月末に比べて6兆9957億円減少。代わりに「預け金等」が5兆4922億円増え、外債などの「その他の証券」は3兆0128億円増えた。
会見した日本郵政の市倉昇常務執行役は「国債中心の運用ポリシーは変わっていない。満期が来ても現在の金利では国債は買えない」と説明した。
<後略 引用終わり>
日銀の異次元緩和で短期国債ばかりか5年債の金利も一時的にマイナスになる状況が発生し、これまで日本国債中心に運用されていた「ゆうちょ」と「かんぽ」の資金も、運用益確保の為に外債(米国債)に流れている様です。
さらに外部から高度な資産運用を行うファンドマネージャーを採用して、外債運用を増やして行くと発表しています。
■ 日本国債市場から締め出される国内金融機関 ■
日銀の異次元緩和で日本国債の金利は極めて低い水準になっています。この結果、本来満期保有を前提としていた生命保険やゆううちょ、かんぽなどの金融機関が日本国債で金利収益を上げる事が難しくなっています。
日銀の異次元緩和は結果的にこれらの金融機関の資金を日本国債市場から締め出しています。そして、これらの資金は安全に金利が稼げる米国債に流出する事は確実でしょう。
■ 経常収支の黒字を支えたのは海外から日本国債に流入した資金 ■
興味深いのは、日本の資金が金利を求めて海外に流出するのに対して、海外の資金が日本国債に流入している事です。
「今の日本は貿易赤字が拡大しているが、資本収支の黒字がこれを補っている」というのが最近の常識となりつつありましたが、2014年は少々違った様です。
2014年の日本の投資家による海外株式・ファンド投資は6兆6743億円の資金流出
2014年の日本の投資家による海外の中長期債投資は4兆4663億円の資金流出
2014年の海外の投資家による国内の株式・ファンド投資は、3兆7365億円の資金流入
2014年の海外の投資家による本邦中長期債(ほとんど日本の中長期国債)投資で、2014年は何と12兆3535億円の資金流入
2013年から2014年が海外投資家は12兆円も日本国債(中長期債)の保有を増やし、これが日本の資本収支の黒字確保に貢献しています。一方、国内投資家は海外投資を増やした結果、10兆円以上資本が流出しています。
■ 「ドル高、高金利=強いドル」と「ドル安、低金利=弱いドル」の循環 ■
日本国債の投資しているのはヘッジファンドなどですが、彼らがこんなに金利の低下した日本国債でどの様に利益を出しているのかは興味深い所です。
先日、10年債の入札が不調で金利が上昇するまでは、日本国債の金利はほぼ一貫して低下していましたから、日本国債を保有して日銀に売却すれば薄利ながらも安全に利益が出る状況が続いていました。
ただ、昨年後半はドル高円安が進行していましたから、海外の投資家は日本国債投資で為替差損が発生し易い状況でした。それでも彼らが日本国債投資を進めた理由は何なのでしょうか?
アメリカは「強いドル」と「弱いドル」を巧みに使い分けて為替相場を上下させています。これによって大きな資金移動が発生し、投資家達は利益を上げて来ました。
現在アメリカはリーマンショック以降の「弱いドル」政策を変更し、FRBの利上げによって「強いドル」の時期に入ろうとしています。当然ドル高基調になるので、資金はドルに向かうはずです。その意味では日本の投資家達の海外(アメリカ)への投資は正しく、海外投資家達の日本国債保有の増加は不可解な現象です。
ちょっと短絡的に勘繰れば、近い将来にドル安円高の局面が訪れる可能性が有るのでしょうか?
■ FRBの金利引き上げの直前に米国債金利は上昇するハズ ■
現在、日銀が追加緩和をしてまで日本の資金を米国債に流出させている目的は、FRBの利上げに際して米国債金利に上昇圧力が掛かる事が主な理由でしょう。
リーマンショック以降、米国債金利はFRBの量的緩和によって低く抑えられて来ました。テーパリングの開始前後で米国債金利は上昇を見せましたが、それ以降は不気味な程に米国債金利は低下の一途を辿っています。
利上げ観測によって昨年末頃から正解ではリスクオフの動きが高まっており、新興国からの資金還流によって米国債金利が低下したと考えられています。
しかし、これは裏返せば多くの投資家が「米国債を高掴み」している事を意味しています。投資家達はこの高掴みした米国債をそろそろ手放したいと考えるはずです。その受け皿になっているのが、日本から締め出された資金や、ヨーロッパから締め出された資金では無いのでしょうか?
多分、今年6月に掛けて米国債金利が上昇(価格は低下)する局面が起こり、同時のドル安に一時的に振れる時期が有るのかも知れません。ただ、これは多分投機的な仕掛けで、慌てて米国債を手放す輩をカモる為のイベントになると思われます。
その後は「FRBの利上げ成功」で一気にドル高が進行するのでは無いか・・・。
そう考えると、米国債に投資された日本の資金は、右往左往しないでそのままにしていた方が利益が拡大しそうです。
■ 問題は次の「弱いドル」がいつなのか? ■
短期的な利益を求める投資家達は、これから利上げに掛けて変動を激しくするであろう市場は稼ぎ時です。
ただ、私達庶民の生活には、「次の弱いドル」がいつ訪れるかという問題の方が重要でしょう。仮にGPIFや「ゆうちょ」や「かんぽ」資金が満期保有を前提に米国債に投資されたとしても、その時にドル安になっていれば我々の資産は損失を被る事になります。
多くのバブルは2年程度で崩壊し始めますから、2015年半ばににアメリカが利上げに成功した場合、2017年後半位から米国バブル崩壊に予兆が現れるはずです。ジム・ロジャースなども同様な見方をしています。
ただ、市場の大半の参加者が同じ様な予測をする時、市場は往々にし予想を裏切ります。特に、各国中央銀行の量的緩和で過剰流動性が支配している現在の金融市場はテールリスクを目いっぱい拡大している状況です。どこかに私達が気付かない大きな歪みが溜まっている可能性があります。
こういうリスクは危機が発生してから初めて人々の注目を集めるので「ブラックスワン」と
呼ばれています。
何となくですが、現在は異常に低下している原油価格が怪しい様な気がしています。中東で戦争が勃発したり、ウクライナ危機がエスカレートしてロシアがヨーロッパへのエネルギーの供給を止める様な事が起きれば、世界は一気に危機モードの突入します。
本来は「有事のドル買い」が発生する局面ですが、リーマンショック以降は「有事のドル売り」が何度か起きています。
・・・・まあ、予測不可能だから「ブラックスワン」なのであって、今顕在化していないリスクは投資家にとっては基本的にはゼロリスクでは有るのですが・・・。
NHKが預金封鎖の特集を報道したり、日銀の黒田総裁が国会で国債の持続性に言及したり、なんだか日本国債を巡る状況も変化しつつあります。「実はブラックスワンは日本国債だった・・・」なんてね・・・・。外国人投資家の日本国債保有額は46兆円。比率では5.2%に過ぎませんが、これが一気に売りに転じたら結構インパクトは有るはずです。