■ イギリスの国民投票で暴落したドイチェバンク(ドイツ銀行)株 ■
イギリスの国民投票の結果を受けてヨーロッパの株式市場は大荒れでしたが、最も注目されたのはドイチェバンク株の下落。これ実は「狙われた感」がMAXで、ジョージ・ソロスが空売りをしまくったとか。
昨年辺りから注目を集めているドイチェバンク。デリバティブ残高が67兆ユーロ(8710兆円)とドイツのGDPの20倍に達している事から、信用収縮の流れが起きたら一たまりも無いどころか、リーマンブラザーズ破綻以上の影響を金融市場に与えると言われています。
■ デリバティブって何? ■
リーマンショックで注目を集めたデリバティブ取引。複雑な金融商品で私の様な素人にはイメージし難い。
デリバティブなどと呼称すいると「何だかイカガワシイ取引」の様な見えますが、一般的には次の様な手法とその組み合わせで出来た金融取引です。
1)先物 (株価指数・通貨予約・商品先物)
2)オプション (株価・金利・通貨)
3)スワップ (金利・通貨)
デリバティブ取引の目的は二つあります。
1)リスクを軽減する
2)利益を拡大する
一見相反する内容ですが、例えば日本の輸出企業などが将来的な円高を予測して現在の為替レートで為替予約を行うケースは「リスク軽減」に当ります。
逆に日本の投資家が将来的な円高を予測して将来的に実行されるドル売り円買い取引の円の価格を現在の価格に設定する様なケースは「利益拡大」に当るでしょう。
「リスクヘッジ」と「リスクテイク」で正反対の様に思われますが、やっている事は同じなので、相場が予想に反して動けば利益が減少したり損失が発生します。「リスクヘッジ」的な使い方をしている場合は利益の減少で済みますが、「リスクテイク」の取引では往々にして損失が発生します。
為替予約を絡めた取引では、リーマンショック時に日本の多くの中小企業が銀行や証券会社に売りつけらて大損をした、為替が予想範囲を超えて動いた場合にリスクが急拡大する様な商品もありました。
■ 複雑なデリバティブが危機を拡大した ■
デリバティブによる危機の顕著な例がリーマンショックです。当時はアメリカの住宅担保証券(MBS)などを原料にした様々な「債務担保証券(CDO)」が売られていました。債権の組み合わせでリスクが軽減されると考えられていました。
さらに「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」という一種の保険を取引に掛ける事でさらにリスクが軽減されると信じられていました。
CDSは他人の金融取引に勝手に保険を掛ける様な商品で、取引する本人が購入すればまさに保険として機能します。契約者は一定の金利を払いますが、取引が無事終了すれば払い戻しを受けられます。一方、それを他者に転売する事も可能で、誰がやっているのかも分からない取引に掛けられたCDSを買っても取引が無事終了すれば金利が得られました。一方で、その取引が不調に終われば取引をしている当事者には保険が支払わせれますが、CDSを保有している人のCDSは紙切れになります。こんなヘンテコなCDSも様々にブレンドされて金融商品として流通していました。
元々はリスクを低減する為に開発された様々なデリバティブですが、もうごった煮のグツグツ状態にななった金融商品に格付け会社がAAAやAA格を付けていました。「何だか分からないが投資をすれば金利が儲かる」商品に、ヘッジファンドなどが巨大なレバレッジを掛けて投資していたのです。
ところがアメリカでサブプライム層の住宅ローンが破綻し始め、その債権が紛れ込んだ住宅担保証券(MBS)の信用が傷付きます。自分の保有するデリバティブ商品にサブプライムローンが組み込まれているかもしれないと人々は考えました。要は自分のデリバティブ商品は「傷物」かも知れないと恐怖したのです。
「傷物の金融商品を手元に持っていると損をする」と人々は考え、我先にそれを売ろうとしました。結果的に様々なデリバティブ商品の価格が一気の暴落し、流動性も枯渇してしまいました。一時的に「紙切れ」になってしまったのです。
■ 危機を加速したドルの流動性の枯渇 ■
当時、デリバティブ商品の6割をヨーロッパが保有していまいた。顧客に販売した金融商品の解約に備える為に世界中の銀行がドルを手元に置こうとしました。これによって短期で銀行間でドルを融通し合うコール市場の金利が跳ね上がります。
銀行は様々な巨大な取引を常に行っていますが、その取引に必要な現金をいつも持っている訳では有りません。そこで足りない分を金利を払って短期的に市場から調達するのがコール市場です。例えば最短では一晩だけ借りる(オーバーナイト)などという取引もされています。
各銀行が手元のドルを手放さないので、コール市場のドルが枯渇して金利が跳ね上がったのです。そうなると明日の決済が出来ない銀行も出て来ます。これによって「銀行が潰れるかも知れない」という恐怖が市場で加速しました。
これに対してFRBを始めとする各国中央銀行は大量のドルを市場に投入してドルの流動性を保とうと試みます。
■ ドイチェバンクは第二のリーマンブラザーズになるのか ■
話題をドイチェバンクに戻しましょう。
デリバティブ残高が巨大な事で「危ない」と囁かれるドイチェバンクですが、現在の金融取引では何等かのリスクヘッジをするのが当り前ですから、「デリバティブ残高が多い=金融取引が巨大」程度の意味しか持ちません。要は、即危険という事にはならないでしょう。
但し、そのデリバティブの中身が問題で、ギリシャ国債のCDSを大量に保有していたり、或いは中国投資関連のデリバティブを大量に保有している場合、ギリシャや中国で経済破綻やデフォルトが発生すると一気に状況が悪くなります。
ドイチェバンクが危ないと囁かれる理由の一つに、これらの投資にドイチェバンクが積極的だったとの「ウワサ」があるからです。
■ イギリスの捨身の攻撃でダメージを被ったのはドイツ? ■
私はイギリスの国民投票とEU離脱という結果はシティーを始めとするイギリスの支配層の「仕込み」だと信じて疑いませんが、これによってダメージを被ったのはヨーロッパの株式市場、特に金融株です。
今後、ヨーロッパの金融機関はリスクを減らそうと必死になるでしょう。今でも相当進んではいますが、投資部門の人員を大幅に削減し、売却出来る資産は減らして自己資本を厚くするでしょう。
ドイチェバンクの格付けは現在はジャンク級から3つ上ですが、ムーディーズは格下げを検討しています。今後、ドイチェバンクは資金調達が段々と難しくなって来て、どこかの時点で格付けを「ジャンク級」に落とされるかも知れませ。
そうなるとドイチェバンクと取引の多いフランスのソシエテジェネラルやBNPパリパなどの銀行に危機は波及する恐れが有り、ヨーロッパ発の金融危機が現実味を帯びて来ます。
■ リーマンショックで学んだ世界 ■
「とても危険」に見えるドイチェバンクですが、○○ショックは「見えている危機」からは起こり難いものです。リーマンショック時に危機を拡大したのは巨大なレバレッジでしたが、現在のレバレッジの水準は当時に比べればカワイイものです。
又、各国中央銀行もドルの供給量を拡大して、リーマンショック時の様にドルの流動性が枯渇する事態を防いでいます。現在は多少混乱している市場ですが、次第に安定を取り戻すでしょう。
■ ボディーブローの様に効いている ■
しかし、昨年から始まった世界経済の収縮はボイディーブローの様に金融市場にストレスを与えています。各国中央銀行が異次元の緩和政策を継続する間は持続可能ですが、それが収縮に向かう時点で世界経済は崩壊を迎えます。
既にジョージ・ソロスやジム・ロジャースらは株式などのリスク資産を減らし、現物にシフトしています。一方で、様々な危機を利用しては市場に揺さぶりを掛けて利益を拡大しています。既に世界の市場は、一部の者にとっては下落で利益を生む市場に変質している事には注意が必要です。薄商いの中で値を吊り上げてから大きく落とす事で彼らは利益を拡大しています。
金融市場の潮目は完全に変わっていますが、緩和資金で水膨れした市場は、必ずや思わぬ所から破綻を来すはずです。
筋書的には「ドイチェバンク危機」ではヒネリが少ない気がします。もっとサプライズが無ければ市場は崩壊しません。次なるブラックスワンははたして何なのか・・・水面がざわつき始めてはいますが、姿は依然として見えません。