■ スマートなお金 ■
スマートという言葉は日本では「痩せている」意味で使われますが、英語では「賢い」という意味で使われる事が多い。実は「痩せている」というのは誤訳で、「粋」だとか「イケてる」というのが本来のニアンスです。
ところで最近「スマートマネー」なる言葉が使われ始めています。「賢い投資」という意味の様ですが、私は「スマートマネー」と言う言葉は、来るべき仮想通貨(電子通貨)の為にとっておくべきだと思います。
■ 情報化したお金 ■
ビットコインなど仮想通貨で注目されるブロックチェーン技術。「分散管理台帳」と日本語で表現されたりしますが、要は取引履歴を分散して管理する技術。
ビットコインを例に取ると
1) 誰かが複雑な計算をしてビットコインをマイニング(作り出す)する
2) 作り出されたビットコインは分散管理台帳に登録される(採取の持主は採掘者)
3) 複数の人がビットコインの分散管理台帳に登録する
4) 登録した人のPCに採掘されたビットコインのデータが複数登録される
5) 採掘されたビットコインの所有者が変わると台帳が書き換えられる
6) 取引の度に台帳か書き加えられててゆく
7) 台帳は分散して登録されて人のPCで管理される
8) 台帳は複数存在するので誰かのPCが壊れてもデータが完全に失われる事は無い
コインという名前から「お金という物」を想像してしまいますが、確かにトークン(コイン)も存在はしますが、その主体はあくまでも台帳という電子データです。
■ 現在の電子決済システムが管理しているのはお金の出入りだけ ■
従来はお金はコインや紙幣など「物体」でした。人から人の手に渡る事でお金は機能しますが、木の葉でも石でも貝でも「お金」として機能します。しかし「偽物」が作られると「お金の信用」が失われるので、「希少性のある金属をコインに加工したもの」や「高度な印刷技術で作られた紙幣」が現代ではお金の主役となっています。現代のお金で重要なのは「中央銀行、或いは政府が発行し、偽物で無い」という「信用」です。
一方で、現代においては、様々な取引で電子化した通貨が使われています。例えばクレジットカード決済やスイカの様なプリペイドカードでは、実際のお金のやり取りでは無く、口座間のデータのやり取りや、予め預けられたお金を電子台帳的に決済する事でお金のやり取りが行われます。銀行間の決済なども電子決済です。この様に現代においては「お金の決済機能」の多くが既に電子化されています。
しかし、既存の電子決済システムは、台帳管理の主体がバラバラで、システムもバラバラです。それらの台帳が管理しているのは、その台帳にお金が入って来る時と出て行く時だけです。要は、現在の電子決済システムは、「お金の出入りだけを個別に管理」するシステムです。
■ 仮想通貨は取引履歴こそがお金 ■
ビットコインの様な仮想通貨の「分散管理台帳」は、その仮想通貨が生まれてから、どの様に人々の手を渡って来たかという履歴を全て保存しています。その仮想通貨が本物であるという「信用」は、取引履歴を辿る事で証明されます。
「履歴が保証される=本物である」という事で、仮通貨は決済機能(お金)としての「信用」を担保しています。「取引履歴=信用=お金」という公式が成り立っているのです。
■ 仮想通貨には価値が無い ■
仮想通貨がお金として十分に機能する事は理解できましたが、一方で単なる台帳データに価値があるのかという問題は残ります。
実はここに現在の仮想通貨の最大の「すり替え=詐欺」が存在します。
「仮想通貨の価値はマイニングコストによって作り出される」と信じられていますが、どんなに電力と計算器材のコストを掛けようが、ただのデータに本来は価値など有りません。
仮想通貨の価値は、誰かが現実の通貨で仮想通貨を買った時に初めて生み出されるのです。要は仮想通貨の価値は、現実の通貨の価値によって担保されているのです。
■ 中央銀行が仮想通貨を発行する方がシンプルだ ■
それならば、中央銀行が直接仮想通貨を発行すれば良い。
実際に多くの中央銀行が仮想通貨の研究をしており、いくつかの国では実際に中央銀行が仮想通貨を発行しています。通貨価値の下落に歯止めが効かないベネゼエラでは原油を価値の裏付けとした仮想通貨を発行しています。
結局、現在の仮想通貨は、中央銀行が仮想通貨を発行した時点で魅力を失います。ただ、投機の対象として、或いはマネーロンダリングの手段としての魅力は失われないかも知れません。
ところで、中央銀行は「お金の支配者」ですので「分散管理台帳(ブロックチェイン)」の思想とは相いれない様に思われます。中央銀行は管理したがり、分散管理台帳は管理されたがらない。
仮に中央銀行が仮想通貨を発行するとするならば、そのデータ(台帳)は、中央銀行のサーバーの中で管理されるハズです。複数のバックアップを取る事で安全性は保障されます。ただ、小さな国ならば全てのお金の取引を記録するデータベースを構築するのは簡単ですが、規模の大きな国でそれを一元管理するのは難しそうです。そこで、既存銀行が民間のお金のやり取りを記録する役割を担うという方法が有効かも知れません。
■ 仮想通貨はスマート(賢い) ■
現在は「取引履歴」が保存される事ばかりが注目される仮想通貨ですが、電子化されたお金は色々と便利な機能を付加する事が出来ます。
1)金利をお金自体に掛けられる
現在は銀行預金を通じて行われる金利操作ですが、電子化したお金には直接金利が掛けられます。実は現在の預金を通じた金利システムはプラス金利には対応できますが、マイナス金利には対応出来ません。何故なら、預金を引き出されてしまうからです。
マイナス金利の目的は「お金を使わせたい」ですが、預金を引き出されてタンス預金になったり、引きだした預金が金利の高い海外で運用された場合、マイナス金利は逆効果を生み出します。現在の日本が正に良い例です。
2)消費税を直接徴収できる
すべての売買やサービスの取引にタグ付けすれば、消費税を直接徴収する事も出来ます。キャピタルゲインなどへの課税も直接出来るでしょう。
但し、これらの付加機能を増やすと、仮想通貨のデータが肥大化する問題が生じます。現在のビットコインなどでも、取引履歴の肥大化は大きな問題となっています。「何でも出来る」けれでも「実際には出来る事は限られている」というのが仮想通貨の現在の技術限界です。
■ お金のデータ化がもたらすもの ■
ビットコインを実際に使用している人達が感じている魅力は「決済に手数料が掛からない」ことです。ビットコイン参加者は分散管理台帳を管理する為にPCの器材のコストと電力料金を分担して負担しています。ですから、管理料は実際には掛かっているのですが、銀行の手数料の様に明確に目に見える形では現れません。
また、国境を跨いだ決済も銀行を介在しないのでスムーズで、手数料も掛かりません。これも大きな魅力です。
「現在でもネットを通じて海外の商品でも自由に手に入るじゃないか」とのご意見もあるかと思いますが、多くの場合は輸入代理店や輸入代行者が介在して、彼らのコストが商品代に上乗せされています。これが個人輸入となると、送金や通関など、様々な問題が発生します。
海外から物を買う場合は、輸送や通関という手間は仮想通貨を利用しても変わりませんが、投資や金融商品の購入などはスムースに取引できそうです。
■ 金融仲介機能を必要としない仮想通貨 ■
現在、多くの取引で銀行の仲介機能は重要な役割を果たしています。商品の売買の決済は銀行口座を通して行われ、預金残高は信用のバロメーターにもなります。
しかし、仮想通貨の決済は、電子化した現金の授受なので、銀行の介在を必要としません。個人対個人、企業対企業、個人対企業 などの間で直接決済が可能になります。
現金との最大の違いは、お金を運んだり、送ったりする手間が掛からない事です。これにより距離の制約から解放されます。地球の裏側とだって瞬時に決済が可能になります。
■ 信用は何で担保するのか ■
仮想通貨は、電子化する世界で何かと使い勝手が良さそうですが、「通貨」として考えた場合には価値の裏付けが必用です。先にも書いた様に、現存の仮想通貨は、誰かが既存の通貨で購入する事で価値が裏打ちされています。
中央銀行の発行する仮想通貨ならば、従来通り、中央銀行の資産(多くは国債)が価値の裏付けになります。
中央銀行の主だった資産は国債ですが、国債の価値は将来の税収で担保されています。平時には人々は国債の価値を疑いません。実際には国債を保有するのは個人では無く、多くが銀行ですが、銀行は金利の付く確実は投資対象として国債を購入しています。
プラスの金利が確保され、財政破綻など将来的な価値の棄損が予測されない限り、国債による信用創造のサイクルは回り続けます。
■ 国債の信用危機の時代が始まる ■
現在、先進国の国債の価値を疑う人は少数です。米国債は依然としてドルと同等の信用を保っています。財政赤字が膨らんだ日本国債もゼロ金利やマイナス金利(国債価格は上値)を維持しています。
しかし、これはリーマンショック以降、先進国の中央銀行が国債を買いまくった結果であって、政情な市場機能が働いて見つけた価格ではありません。ヨーロッパでもECBが銀行に資金を供給する形で国債の購入が進んでいます。
特に日本では、日銀の異次元緩和によって市場の価格決定力は失われています。年間60兆円もの国債を日銀が購入する状況は、財政ファイナンス以外の何物でも有りません。
最近は「日銀は政府の子会社なのだから、統合政府の借金は増えないし、金利がゼロなのだから政府は幾らでも国債を発行出来る」と信じているバカも増えて来ました。
確かに少子高齢化で成長力の鈍化した日本は、インフレ率がゼロかゼロ以下のデフレに陥り易いので、国債金利がゼロやマイナスでも不思議ではありません。しかし、現実実を帯びて来た中東戦争が一度起これば、原油価格高騰によるインフレは簡単に起こります。
石油ショックの時代、ヨーロッパやアメリカでは不景気でインフレ圧力は低かったのですが、原油価格の高騰でインフレが進行しスタグフレーションが発生しました。経済の成長力が鈍化していてもインフレは発生するのです。
仮に中東戦争が起きて原油価格が上昇すると、国内の物価も高騰します。当然、インフレ率の応じた金利上昇は発生します。この時、ゼロ金利の国債を保有している金融機関や生保はどうするでしょう。普通に考えれば国債を売却します。
生保は満期保有を前提にしているから大丈夫だろう・・・そう思われるかも知れませんが、生命保険も一瞬の金利商品ですから、受け取る保険額がインフレ率に対してみすぼらしい金額になるならば、人々は解約します。
こうして、一旦金利上昇が始まると、市場でゼロ金利の国債の買い手は居なくなり、売りが売りを呼んで国債価格は暴落します。そうなる前に日銀が全量買い取りを宣言するハズですが、この時点で国債の価値は相当下がるので、円の信用危機が発生します。多分、多くの人が銀行預金を引き出しに走るでしょう。当然、為替市場で円は暴落し、インフレ率はさらに高まります。
この様な危機は日本に限った事ではありません。リーマンショック以降、各国の国債金利は下がりまくっていますから、ちょっとのショックで国債金利は跳ね上がります。先般のイタリアが良い例ですが、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、フランス辺りは結構危ない。
FRBが利上げをする理由も、この様な金利上昇を恐れているからですが、アメリカはシェールオイルを算出しているので、原油価格高騰の影響をある程度抑えられるかも知れませんが、仮にFRBが金利上昇速度を速めれば、リーマンショック以降、金利の下がり切ったジャンク債市場が即死します。
ジャンク債市場で資金調達をしていたメインプレーヤーはシェール企業ですから、国が救済しなければシェール企業が破綻して、アメリカの原油価格も高騰します。こうして、FRBは利上のスピードアップに追い込まれ、低金利で成り立っていた株式市場も債権市場も暴落します。そして信用不安は米国債に波及すると私は妄想しています。
■ 通貨の信用回復のオマジナイとしての仮想通貨 ■
陰謀論者の妄想に過ぎませんが、世界中の国債の信用が一時的に暴落する事で、既存通貨の価値が棄損し、高率なインフレが世界規模で進行します。結果的に各国の債務は実質的に圧縮され、人々の資産の価値が失われます。これがインフレ税です。
その後、世界の国々は協調して新しい通貨制度の整備を始めるでしょう。政府債務が圧縮された事で、国債発行残高の厳密化が世界レベルで同意されると思われます。
それでも国債の信用が回復するまで、新しい通貨は原油などのコモディティーによって価値を裏打ちされるかも知れません。
そして、新しい通貨制度のオマジナイとして仮想通貨が導入される可能性は高い。別に仮想通貨になったからと言って、通貨の価値が安定する訳では在りませんが、オマジナイ程度の役には立ちそうです。「通貨がコンピューターによって厳密に管理される」という安心感を人々に与える事は出来そです。
こうしてスマートな通貨が普及し、その利便性によって世界は新たな成長フェーズに入る・・・そう私は妄想しています。全く根拠は有りませんが・・・。