「お父さん、この本絶対読んで!!お母さんも!」
「この本人気だから、1日で読んでヨ!」
娘が学級文庫で借りてきた本を強引に手渡してきました。
「走れ!T校バスケ部」・・確か近所の丸善でワゴンに山積になってました。
仕事の往復と、昼休み読み切りました。
・・・と言うか、結構面白くて、一気に読んでしまいました。
万年、1回戦敗退のT校バスケ部に、
強豪校のH校から転校生がやってきます。
彼の指導もあって、T校バスケ部は初めて勝利を経験します。
それからは各自バスケの面白さに目覚め、
さらには理解ある顧問の先生のバックアップもあり、
都大会の決勝戦にまで登り詰めます。
そして決勝戦の相手は強豪H校・・・。
と、まあ、マンガの世界ではいたってありふれたストーリーです。
いや、むしろ最近のマンガはもっと複雑で、
主人公達も、いろいろと悩みを抱えていますから、
「あひるの空」などに比べると、むしろ「走れ!・・」はいたってシンプルです。
文章も簡単で、まさに小学生にはうってつけの本です。
何故、こんな子供向けの本が大人にも売れているのでしょうか?
それは、バスケに対する愛情が滲みだして来るからでしょうか。
バスケは魅力的なスポーツです。
私はバスケには縁がありませんでしたが、
息子が中学でバスケ部に入部し、つられて娘もミニバスを始めました。
子供達の試合を応援するうちに、私もバスケの魅力の取り付かれてしまいました。
「スラムダンク」と「あひるの空」を大人買して、勉強?もしました。
バスケの魅力はいろいろあります。
5秒あれば1ゴール決まってしまうスピード感。
力が拮抗していれば、1点差、2点差のシーソーゲームになる緊迫感。
力に差があれば100点差ゲームになってしまう明確さ。
そしてバスケはコートの上の格闘技であり、
コートの上のチェスです。
ボールを持っていない選手同士は激しくポジションを争い合い、
5人の選手が、状況に応じて目まぐるしくコートを走りまわる。
最後の一人がフリーになる為に、パスを廻し、ドリブルで切り込み、スクリーンを掛ける。
個人技に勝るチーム、体格に勝るチームを、集団のチームワークと戦術で押さえ込む。
ゴール下の混戦の中に電工石火のごとく飛び込みシュートを決めるパワー。
一瞬のディフェンスの隙を突いて放たれる、優雅なスリーポイントシュート。
実は、私はスポーツ観戦は好きではありません。
スポーツは「するもの」で「観るもの」では無いと思っていました。
しかし、バスケだけは観ていて楽しい。
脳みそがビンビン刺激されます。
戦術が高度に体系化されていて、かなり複雑な内容を選手は瞬時に判断してゆきます。
「走れ!・・」の作者はバスケをプレーしていた人でしょうか?
プレーのツボを良く押さえていて、
実際にバスケをやっている子供や経験者の大人でも熱中させます。
又、バスケを子供にやらせている親の気持も良く書けています。
実際のバスケは、残酷なスポーツで、
力に差があれば、点差はどんどん開いていきますし、
高校生からバスケを始めても、大して上達はしません。
上手な選手は、小学校1年からミニバスを始め、
中学に入る頃には、自在のボールを扱います。
それでも、今度は身長という壁にぶつかります。
「走れ!T校バスケ部」は確かに「あり得ない話」です。
今時、こんな単純で真っ直ぐな話は、マンガの世界でもありません。
まして、大人の小説の世界では評価を受けるどころか、出版すら難しいでしょう。
しかし、バスケを始めた子供達の夢が、小説の中だけでは実現しています。
そして、その夢は複雑な時代を生きる大人達の夢でもあるのかもしれません。
だからこの本は大人にも支持されるのでしょうか?
このあまりに単純な小説(小説と呼べるかどうか・・)を、
稚拙でご都合主義な本と切り捨ててしまうのは簡単ですが、
現代小説が忘れてしまったような、
ただただ単純な「物語を書く衝動」や
「こうあって欲しいという願望」に一時浸るのも悪くはありません。