■ TPPって何? ■
TPP論議が盛んになってきました。
色々と難しい数字が飛び交っているので、
小学生でも分かる様に単純化してみます。
TPPには二つの柱があります。
1) 関税の撤廃
2) 非関税障壁の撤廃
いつもながら、ちょっと極端な比較をしてみます。
<輸入関税>、
A) 現在日本車をアメリカに輸出する時の関税は2.5%です。
B) 日本のコメの関税は700%程度です
C) 車は日本に主要輸出品目で、農産物はアメリカの主要輸出品目です
さて、アメリカ人は日本人をフェアーだと思うでしょうか?
<非関税障壁>
A) フィリピン人の看護婦は世界で人気がある
B) フィリピン人看護婦は日本語の看護婦資格試験を受けなければ日本で働けない
C) 日本語は難しい
フィピン人看護婦にとって、日本語こそが最大の非関税障壁です。
このように、国際貿易やサービスの取引には様々な障壁が邪魔をしています。
この障壁をなるべく無くして、貿易を自由化しようという試みが、
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)です。
■ 先進国における自由化は失業率を上昇させる ■
自由貿易が完全に実施された世界を想定してみます。
1) 関税がゼロになる
2) 工業製品の規格・基準が統一される
3) 農産物の安全基準が統一される
4) 医薬品の基準が統一される
5) 医師免許や看護婦免許、弁護士資格などが統一される
6) 外国人に雇用が開放される
7) 外国にとって不利益な法律や商習慣による損害を賠償させる事が出来る
8) 日本語が非関税障壁だから日本の公用語は英語にすべきだ・・って事にはならないでしょうが
自由な貿易を阻害する障壁が無くなった場合、
補助金などの制度が存在しなければ、
一定の品質を、最も安く作れる国が、その商品の生産国になります。
例えば、アメリカが日本の1/7の価格でコメを生産できるのならば、
消費者が「日本産」に拘らなければ、コメの生産はアメリカで行われる様になります。
例えば、フィリピンの看護婦が、国際看護師資格(存在すれば)で日本で働けるならば、
病院や患者が「日本人」に拘らなければ、看護師という職業はフィリピン人に置き換わってゆきます。
逆に、アメリカが車の生産に関する部品のアメリカ国内での生産比率に関する法律を撤廃すれば、
人件費の高いアメリカで自動車は作られなくなるでしょう。
これらの流れに逆らう為には、国内の生産コストや人件費を
最も安い地域に揃える必要があります。
これは「同一労働、同一賃金」という現象で、
グローバリゼーションの本質とも言えます。
「自由化=生産の効率化」ですから、
その結果として生産コストが下がるのは当然です。
「生産コスト=人件費」と強引に定義するならば、
先進国では「自由化=賃金の低下」となって表れます。
あるいは、「自由化=失業率の上昇」です。
■ アメリカの本質は途上国? ■
TPPに参加する多くの国が新興国です。
先進国のアメリカがTPPに参加すると、
アメリカの失業率が上昇する可能性もあります。
しかしアメリカの主要輸出品目は、農産物と兵器と航空機と金融サービスです。
TPPによる関税の撤廃は、アメリカの日本向け農業輸出を増大させます。
その意味において、アメリカはTPPの他の国と同様に、途上国としての一面を有しています。
■ 日本の米は輸入米に淘汰されるのか ■
池田信夫氏は、GDPの1.5%しか無い農業を保護して、
日本経済が自由化の波に乗り遅れる損失は計り知れず大きいと警告します。
日本の農業の自給率が低いのは、カロリーベースだからであって、
牛肉や牛乳も輸入飼料で生産されれば、輸入品にカウントされるとも指摘しています。
尤も、海外から安い牛肉や乳製品が輸入されれば、
日本の畜産業の受けるダメージは小さくはありません。
しかし最大の問題点は「米」です。
現在でもミニマム・アクセスという名目で、
アメリカ産米は輸入されていますが、少量に留まっています。
これがTPPによって価格差5倍以上の米がスーパーの店頭に並んだら、
日本の消費者は果たして、国産米を選択するでしょうか?
米の輸入が自由化されたとして、
それによて淘汰されるのは、「不味い日本産の米」です。
ブランド米は生き残れても、
等級の低い米や、ブランド力の低い米は太刀打ち出来ません。
外食産業なども、コシヒカリであるならば、国産か米国産は問わないでしょう。
安い輸入米にシフトする事は容易に予想できます。
■ 日本の中の途上国 ■
経営規模が小さく、品質管理も充分でない稲作農家は、
自給米以外の生産を止めざるを得ないでしょう。
当然休耕田が増え、山間などの不便な所は耕作が放棄されます。
将来的に渡って、採算が合わない農地は、売りに出される可能性があります。
TPPによって日本に新たに生まれた失業者はどうなるのでしょうか?
このままでは日本は生活保護大国になってしまいますが、
国家の財政状況はそれを許しません。
結局、生きる為には二つの道が残されます。
都会で安い賃金で働いて、安い輸入食材で生活する。
これが池田氏の主張する所の、TPPが国民に与えるメリットでしょう。
もう一つの選択肢は、耕作放棄された土地を買うなり、借りるなりして、
自給型農業で生計を立てる方法です。
現金収入はほとんど無いでしょうから、
ベーシックインカムの様な、最低の生活費の保証は必要ですが、
年金の受給年齢がどんどん高齢化する実態を考慮すれば、
これは一つの選択肢とります。
いずれにしても、TPPは労働賃金の均質化を発生させるので、
日本の中に、途上国が生まれる事になり、
それを不幸と捉えるか、それとも幸福の一つの形態として捉えるかで、
TPPに対する評価も大きく変わる事でしょう。
田舎で慎ましく暮らし、
年を取ったら、外人の可愛い看護婦さん目当てに病院に通う・・・
そんな未来も悪くないのかも知れません。
・・・いつもながら、不謹慎な妄想が膨らんでしまいました・・・。