■ レバレッジとは ■
リーマンショックの時に、危機の要因の一つとされた「レバレッジ」。日本語に訳すと「梃子(テコ)」ですが、「信用取引」と考えると分かり易い。「自己資金1に大して何倍の取引をするか」という倍率です。
リーマンショック時に「ヘッジファンドが過大なレバレッジを取って危機が拡大した」と言われましたが、当時のヘッジファンドのレバレッジの平均は2.6倍に低下していました。
ヘッジファンドが過大なレバレッジを取っておるという誤解は、1999年の「LTCM破綻」当時のヘッジファンドが生み出したものです。最大で28倍のレバレッジを掛けていた。しかし、その反省から、ヘッジファンドは過大なレバレッジを掛けなくなります。
リーマンショック時に過大なレバレッジを掛けていたのは投資銀行です。株式時価総額に対する投資額(レバレッジ)は、2007年6月に10.4倍。2009年4月で40、7倍となっています。(2009年は株価下落の影響が有るでしょう)
リーマンショック後に投資銀行は商業銀行に吸収される形で形式的には消滅します。ボルガールールによって過大なレバレッジも取れなくなったので、「リーマンショックの様な危機は再び起こる事は無い」と主張する人達が少なからず居ます。
■ リーマンショックで最大のレバレッジを掛けていたのはサブプライム層 ■
投資する側のレバレッジばかり話題になりますが、実は私達が組む住宅ローンもレバレッジが掛けられています。自己資金10万円で1000万円のローンを組めば、レバレッジは10倍です。
リーマンショック時にレバレッジを最大に掛けていたのはサブプライムローンで住宅を購入していた低所得者層です。彼らは貯蓄など持っていませんでしたから、レバレッジは無限大でした。しかし、住宅バブルによって住宅の担保価値が上がった分だけ借り入れが出来たので、住宅価格が上昇している間はローンの返済が可能でした。さらに、最初の数年はローンの返済額が抑えられていたので、破綻が先伸ばしされた。
■ 危機の本質は過剰な債権需要 ■
何故、サブプライム層にまでローンを組ませたかと言えば、金融市場が金融商品の元になる住宅債権を求めていたから。
サブプライムローンや、その他の住宅債権は、MBS(受託ローン担保証券)にまとめられ、金融市場で売買され易く加工されました。「多くのローンを合体させたMBSは「大数の原理」によって破綻しない」と信じられていたので、MBSは飛ぶように売れます。
さらにMBSやその他の社債やカーローンなどの担保証券とごちゃまぜにしたCDOという金融商品も作られます。「ごちゃまぜにすれば「大数の原理」によって破綻リスクが減る」と信じられていたので、これらのCDOは高い格付けが付けられました。
「大数の原理」とは高等数学の用語で、「様々なリスクと持つ債権を一まとめにすると、たとえ破綻が起きても3%以上の破綻は起こらない」という数学的な原理です。しかし、実際には「破綻した債権が含まれる」だけで金融商品としては「傷物」になります。自分の持つMBSやCDOに、どれだけ破綻した債権が含まれるか分からないからです。人々は我先にこれらのMBSやCDOを売ろうとしますから、市場では価格が暴落します。
「大数の原理」は数学的には正しくても、「人の心理」が支配する市場で適応できるものでは無かったのです。そう、高格付けを支える「おまじない」だったのです。
いずれにしても、投資会社は「低リスクで儲かる」と信じて高いレバレッジを掛けて、MBSやCDOの取引を拡大し続けました。当然、それらの元となる債券不足するので、サブプライム層にまで住宅ローンを組ませて、債券を量産したのです。
■ 「破綻した債券が含まれる」と金融商品は価値を失う ■
上記の様に、様々なリスクの債券を合成した金融商品は、リスクの高い債券の一部が破綻し始めると一気に価値を失います。
リーマンショック時に暴落したMBSやCDOですが、冷静に破綻率を計算すれば、3%以下に抑えられていた可能性は大きい。しかし、ゴチャゴチャに合成されたMBSやCDOから、破綻した債券を抽出する事は事実上不可能で、結果的に全てのMBSやCDOが「傷物」と判断され、価値を失いました。
一次的に価値を失ったMBSをFRBが大量に購入します。危機が去れば、これらのMBSはきちんと金利見出しますから、再び価値を取り戻します。FRBは時期を見て、購入したMBSをちょっとずつ市場売却して行きました。
「心理」が支配する市場は、危機に際しては「合理的判断」を失います。これは生存競争において生物が獲得した本能で、「先に逃げれば個体が助かる確率が高くなる」からです。しかし、金融市場では、皆が逃げれば市場が崩壊して、危機は全体に及びます。これが「〇〇ショック」の本質です。
■ 現在拡大しているローン担保証券(CLO)のレバレッジ ■
現在、サブプライムローンと同様に危機が噂されるCLO(ローン担保証券)。
アメリカの中小事業主などが借り入れたローンをまとめて証券化した金融商品です。MBS同様に、様々なリスク(金利)のローンを合成して作られいます。
ジャンク債と違い、きちんち担保を設定したローンが元である事から「比較的安全」とされていますが、ローン自体の平均レバレッジは5%程だそうです。これはサブプライムローンの無限大に比べれば、かなりマトモに見えます。
FRBの金融緩和でアメリカの金利も下がっていますので、アメリカのローン金利も当然下がりました。信用力の高い企業のローン金利は低くなります。これらのローンを集めて証券化しても大した金利は付かないので金融商品としては魅力が有りません。
そこで、信用力の中くらいのローンと、信用力が低いローンと、信用力の高いローンを適当な配分で組み合わせる事で、魅力的な金利の金融商品としたのがCLOです。
CLOに飛び付いたのが日本の金融機関です。特にゆうちょ銀行や、農林中金、地銀、さらにはメガバンク。運用力の低い日本の金融機関は、「低リスクでそこそこの金利」といううたい文句に弱い。
■ FRBも警告を発したCLOの過剰発行 ■
日本の資金を吸い上げる事で拡大したCLO市場ですが、昨年末にFRBが警告を発しています。それを受けて金融庁も主な金融機関のCLOの保有状況を確認しています。
CLOのリスク要因はFRBの利上げです。ローンを借りた中小企業は「借り換え」を繰り返して事業継続しています。いわば「自転車操業」に近い。FRBの利上げによって、これらの企業の金利負担は借り換えの度に増大しています。
アメリカ経済が好調で、事業の売り上げが順調の時にはローンは破綻しません。しかし、一度米経済に陰りが見え始め、消費が縮小すると、財務状況の悪い企業から破綻が始まります。そうなると借り換え金利も上昇するので、破綻はさらに拡大します。
米経済がピークを打ったと言われる中で、アメリカの中小企業の破綻は今後拡大するハズです。日本からの資金が支える事で過剰なリスクを取っている企業も多いはずで、これが破綻する構造
日本の量的緩和マネーが支えていたサブプライムローンが崩壊した構造に似ています。
■ 5%の平均レバレッジは安全か? ■
CLOやジャンク債市場が、次の金融危機の引き金を引く可能性が高まっていますが、「投資銀行が過大なレバレッジを賭け、無限大のレバレッジのサブプライムローンが量産された時代と今は違う」と主張する人は少なく無い。
しかし、一度、アメリカの中小企業の倒産が増え始めたら、保守的な日本の金融機関はCLOを売却するハズです。現に、リスクが高まった2018年末には、ジャンク債は起債されなくなり、CLOも買い手が付かなくなった。日本の金融機関が買い控えたからです。
「金融商品は傷物になると価値を失う」というリーマンショックの教訓を踏まえれば、デリバティブ市場の規模がリーマンショック前よりも拡大した現在は、リーマンショック以上のリスクを世界は抱え込んでいます。
レバレッジの数字だけ見れば「過大なリスクでは無い」と思われがちですが、国債中心の保守的運用をしていた日本の金融機関がリスク運用を拡大した事で、リスクは広く浅く拡散しています。これは日本に限った事では無く、金利の低下した世界で、多くの保守的な投資家が、それなりのリスクを抱えています。
FRBは本年中の利上げをしない様ですが、アメリカの景気という「水位」が低下すると、水面下に隠れていたリスクが、様々な場所から顔を出し始めるハズです。
「炭鉱のカナリア」とも言えるジャンク債市場あたりに注意しておいた方が良いでしょう。