■ 米国債を買い支えていた中国 ■
米国と中国は対立関係にあると思われています。しかし、米国債を買い支えていたのは中国です。
1)貿易黒字によって元高の傾向が強まる
2)元安の為替介入の為に香港市場で元売りドル買い介入を行う
3)介入の結果手元に溜まった外貨準備を米国債に投資する
中国は最近までは世界最大の米国債保有国だったんぼです。香港市場における為替介入は香港上海銀行(ロスチャイルドの銀行)を通して行われていますので、国際金融資本家達の影が見え隠れしています。
■ 安全保障に役立たない中国の米国債保有 ■
「中国が米国債を大量保有するのは、有事の際に米国債を売却するそぶりを見せる事で、米国の人質としているのだろう」という噂がかねてから有ります。
しかし、アメリカは法律で安全保障上懸念される場合は、他国が保有する米国債を凍結する事が出来ます。もし、米中で緊張が高まれば、アメリカは中国が保有する米国債を凍結します。この関係において、米国債保有のリスクは一身に中国が追う事になります。
これは日本においても同じで、日本が財政破綻しそうになって政府が手持ちの米国債を売却しようとしても、米国は安全保障を理由に日本の米国債を凍結するはずです。そうしなければ米国債が暴落して日米共倒れになってしまうからです。日本は世界最大の債務国だが、世界最大の債権国と思われている方は沢山いらっしゃいますが、日本政府は保有米国債を一同も償還した事すら無いはずです。ロールオーバーし続けながら、粛々と米国債を買い続けています。これは、日本が米国に払う税金の様なものです。
一方、中国は満期になった米国債をロールオーバーしないという選択肢も選べる様です。米国債の保有額が減少しています。
中国は手持ち米国債の残存年数を圧縮して、順次償還を迎えれば、米国債保有額を圧縮する事が出来、アメリカに正面から挑まずとも米国債保有リスクを軽減する事が可能です。
■ 元安で中国の米国債買いが減少している ■
世界的な需要の低下は、元安傾向を強める事によって米国債需給を圧迫しています。中国は世界最大の米国債保有国でしたが、直近で日本が世界一の座に帰り咲いています。
1)世界的な景気減速で中国の海外輸出が減少
2)中国の貿易収支が縮小して元安の傾向になる
3)元安誘導の為の為替介入の必要が無くなる
4)元売りドル買いの為替介入によって手元に溜まったドルを米国債で運用する必要が低下
■ AIIBは中国の巨大な外貨準備を米国債から域内インフラ投資に切り替える政策 ■
AIIBに難色を示すアメリカと日本ですが、アジア経済の主導権争いの他に米国債需給の悪化を懸念しての事と思われます。
1)中国は巨大な外貨準備を米国債投資で運用してきた
2)AIIBの出資に外貨準備を回した分だけ米国債購入を手控える
中国は積極的に米国債を売却せずとも、AIIBという出仕先を作り出す事で、米国債以外の運用の口実を手に入れた事になります。結果的に米国債の保有量を段階的に減少させる事が出来ます。
■ 中国の代わりに米国債を買わされる日本 ■
民主党政権末期、アメリカから米国債購入の圧力が高まりました。
「日本は政府ファンド50兆円を立ち上げて米国債を購入するだろう・・」という記事がブルームバーグなどに載ったり、「日銀による米国債購入を検討すべき」という意見が出されたりしました。
しかし、リーマンショック後の景気悪化の中で日本政府や日銀が米国債をアカラサマに購入する事は国民が納得出来ません。当時の国会答弁で民主党の前原氏も、「日銀が米国債を直接購入する事は不可能」と述べています。
そこで考え出されたのが異次元緩和です。日銀が米国債を直接買う事が出来ないならば、日銀が公的金融機関や民間金融機関の保有する日本国債を購入し、その分公的金融機関や民間の金融機関が米国債投資を増やせば良い・・・。
政府はGPIF(年金積立金)や、ゆうちょ、かんぽの運用比率を変更して、日本国債の比率をい減らし、日本株、外国株、外国債の比率を拡大しました。外国株とは米国株、外国債とは米国債の事を指します。こうして、公的資金や準公的資金を日本国債から締め出し、米国債投資を拡大させています。
一方、民間の金融機関に対しても「日本国債の保有リスク」と強調して、日本国債の保有量を減らさせています。IMFは日本のメガバンクに日本国債保有と残存年数の圧縮を提言していますが、メガバンク3社はIMFの提言通りの運用に切り替えています。
金融庁も地銀や信用金庫に日本国債偏重の運用を是正する様に指導しています。地銀はメガバンクに資金運用を委託する形で、海外運用を拡大しています。
■ バーセルの基準変更をほのめかしてて国債離れを促すBIS ■
BIS(国際決済銀行・本部スイス)は中央銀行の協調の場として、国際的な銀行の基準を定めています。銀行が国際業務を行う為にはBISが定めた基準を満足する必要があります。これをバーセルと呼びます。(現在はバーセルⅢ)
日本のメガバンクはかつて貸付が巨額でそれに対する自己資本比率が低い事が特徴でした。バブルの崩壊の直後、BISはバーセルに基準を変更し、自己資本比率が8%に満たない銀行は国際業務が出来ないと定めます。
日本の大手銀行はこの基準を満たす為に、融資を引き揚げ(貸しはがし)、増資によって自己資本比率を厚くしました。この結果、バブル後の日本の経済は長期に渡り低迷し、さらにに日本のメガバンクの株を多くを外国人投資家が保有する事となりました。資金繰りに苦しんだ多くの企業はハゲタカファンドの餌食となり、さらに資金調達の方法を銀行の融資から株式や社債などの直接金融に切り替えた大手企業の株式の半分近くを外国人投資家が保有する事となりました。
この様に、BISの基準変更は何等かの意図が見え隠れしているのですが、最近、BISはこれまで「リスク0(ゼロ)としてきた自国国債をリスク資産に分類する基準変更をほのめかせています。
もし、日本国債をリスク資産と見なした場合、海外業務を行っている日本のメガバンクや大手地銀は、日本国債保有に見合う自己資本の積み増しか、日本国債売却を迫られます。
自己資本の積み増しは株式発行による増資で賄う必要がありますが、希釈化による株価下落が予測される事から、日本国債売却を選択すると思われます。
日本国債の価格低下(金利上昇)を抑え込む為に、日銀は異次元緩和を超次元緩和に拡大して吐き出される国債を買い支えます。
金融機関はしばらくの間、国債売却資金を日銀の当座預金に積み上げる事になるので、日銀はこの資金で国債を購入します。要は国債のリスクが銀行から日銀に移る事になります。
銀行は国債売却資金のある程度を運用に回すでしょう。日銀の当座預金の利息は0.1%程度ですから、それより利率の良い安全資産は世界には沢山有ります。その筆頭が米国債です。
邦銀の保有する米国債も当然リスク資産ですが、金利差を考慮すれば、日本国債より米国債が魅力的となります。
こうして、BISの基準変更はメガバンクや大手地銀の資金の少なからなぬ量を、米国債に流す効果があるでしょう。
■ ヨーロッパの銀行や生命保険も、国債金利低下のリスクに晒されている ■
BISの基準変更は日本だけでなく世界の大手銀行に影響を与えます。
ヨーロッパ各国の国債金利は極端に低下しています。南欧諸国の国債はリスクを反映しない金利となっています。もし自国国債もリスク資産と分類されると、南欧債から資金が一気に逃避する可能性があります。ECBが国債買い入れによる量的緩和に踏み切った背景には、BISの基準変更が念頭にあったとも思われます。
IMFはヨーロッパの生命保険各社が金利の低下した国債を大量に保有するリスクに晒されていると警告しています。これは、近い将来国債金利が上昇する可能性を示唆していると思われます。
■ リスクウエイト・ゼロの米国債 ■
日本やヨーロッパ同様に米国債にもバーセルの基準変更の影響はあるのでしょうか?
上のグラフは2011年に私が作成した米国債の保有比率です。実はアメリカの金融機関(家計)は米国債をあまり保有していません。その後、QEによってFRBの比率が拡大し、米国内民間金融機関(家計)の比率はさらに低下しているはずです。
2014年12月 日本国債保有割合
比較の為に日本国債の保有比率を掲載します。異次元緩和によって日銀の国債保有比率は既に25%に達しています。日本国債はゆうちょ(中小金融機kジャン)とかんぽ(保険)の保有比率が高い事も特徴です。ゆうちょやかんぽは海外事業を展開していないので、バーセルの基準は適用されません。一見、日本とアメリカでBISの基準変更の影響は大差無い様に見えます。
しかし、問題は自国国債のリスクウェイトにあります。アメリカ国債の格付は(AA+)でリスクウェイトがゼロです。
一方(A+)~(A-)までの国債のリスクウェイとは20%となります。日本国債の格付けはフィッチが先日引き下げて(A)、ムーディーズが(A1=A+)、S&Pが(AA-)で(A+)の一つ上となっています。BISの基準変更で日本国債のリスクウェイとは20%とされる公算が大きいと思われます。
日本のみならず、南欧債や新興国国債市場から資金が炙り出され、AA+格でリスクウェイトゼロの米国債に流入させる為にBISは基準を見直すのかも知れません。
さらにボルガールールを厳格に適用した場合、米国の金融機関が保有する外国国債はリスク資産となる可能性が高まります。その結果、リスクゼロの米国債に資金還流が起こります。
こう考えると、BISの基準変更は、利上げに向けて金利上昇圧力が高まる米国債への援護射撃とも言えます。リーマンショック後、危機の震源地のアメリカでは無く、ギリシャ危機でユーロと南欧債に大きなストレスが掛りましたが、米国債やドルに圧力が掛る時、金融資本家達は生贄を見つけて米国債やドルを防衛してきたとも言えます。
■ 次なるブラックスワンに成りえる国債のリスク資産分類をBISが強硬するのか ■
リーマンショック以降、世界の国債金利は下がり続けています。これは国債金利がリスクに見合わない金利となっている事を意味しています。特に日本国債や南欧債に歪がたまっています。
BISがバーセルの基準見直しを持ち出してきたのは、国債金利の低下に警鐘を発する為だとも考えられます。リーマンショックの危機を脱しつつある中で、国債に集中してしまいた「低金利のリスク」を分散化し、リスク市場に資金を流す事を目的にしているのかも知れません。
ただ、仮にBISが自国国債をリスク資産としするバーセルの基準変更を強行した場合、歪がたまった国債市場に大きな影響を与える事は確実です。日本や南欧諸国の国債金利がぴょんと跳ね上がる可能性は否定出来ません。
次なるブラックスワンに成りうる自国国債のリスク資産化をBISが強硬するのなら、そこには国際金融資本家達の深遠な思惑が潜んでいるはずです。
「BISには気を付けろ!!」・・・15年前に痛手を負った日本の銀行マン達は、きっと戦々恐々としているかも知れません。