■ 逆『オイル・クラッシュ』 ■
ポール・アドーマンの1979年の小説
『オイル・クラッシュ』はイランが核開発によってサウジアラビアに敵対するという内容の小説。ちょっとネタバレすると、結末は、イランに招かれて核開発を主導した博士がユダヤ人で、彼の開発した核爆弾は破壊力は小さく、一方で半減期の長い放射性コバルトを大量に放出するという代物。
これによってエルサレム周辺は長期に渡って放射線に汚染される事になり、アラブ人達もユダヤ人達も近づく事が出来ないなります。そう、「聖地エルレムが奪還」されたのです。
その一方で中東の油田地帯も放射線に汚染され、ウジ、クウェート、イランの油田には誰1人足を踏み入れる事が出来なくなります。そして石油文明に支えられた現代社会の崩壊が始まる・・・。
「石油ショック」の時代を反映した小説として秀逸な作品ですが、現在世界で起きているのは「逆オイルクラッシュ」。
原油価格が暴落する中でイランの経済制裁が解かれ、イランの原油が市場に放出される影響はとてつも無く大きい。原油が足りないのでは無く、原油が多すぎる悩みに人類は直面しているのです。
■ サウジ、アメリカとも原油安を仕掛けている事がミエミエ ■
本来産油国のサウジにとっても、シェール企業の破綻が問題となるであろうアメリカにとっても原油安は避けなければならないはずです。
しかし、シェール企業をブッ潰すとして原油の減産に踏み切らないサウジアラビアも、このタイミングでイランの経済制裁を解除するアメリカも、自分で自分の首を絞めている様にしか思えません。
この様に一見不合理な出来事の裏側には、「世界の経営者の合理的な思惑」が隠されていると考えるのが陰謀論の鉄則です。
■ リスクオフで米国債を防衛出来るのか? ■
原油価格の下落の影響は年初来の株価下落にも大きな影響を与えています。FRBは利上げに踏み切っていますから、米国債金利に上昇圧力が掛っていますが、リスクオフの大きな流れが米国債へと資金を誘導しています。陰謀論の表層的には、現在のリスクオフは米国債とドルを防衛していると見る事が出来ます。
しかし、このまま市場がダラダラと下落すれば、世界的金融緩和で積み上げて来たリスクポジションがどこかの時点で反転して、リーマンショック以上の信用収縮が起きる事は避けられません。原油価格に下落圧力を掛けて米国債を援護した所で、結局は次の大規模な金融危機は避けられないでしょうし、その時にはドルを初めとした世界の通貨の信用も大きく失われます。
■ ドルの信用を保ったオイルショック ■
ドルの信用が揺らぐ事が確定しているとすれば、世界の経営者はどの様な行動に出るでしょうか?この疑問には「ニクソンショック」と「中東戦争」が答えを出しています。
ニクソンは1971年8月15日に突然ドルの金兌換停止を発表します。ドル、いえ世界の通貨が紙切れになった瞬間です。当然、ドルの信用が棄損して各国通貨に対して切り下がりますが、それでもドルは基軸通貨の地位を失いませんでした。
1973年に起きた第四次中東戦争の影響で「石油ショック」が発生します。産油国は1年程の期間で原油価格を3.01ドルから11.65ドルまで引き上げます。3.87倍です。その後も原油価格はジリジリと引き揚げられ、イラン革命に端を発した第二次オイルショックの影響もあって、1980年代には原油価格は40ドル台に達します。10年間で10倍以上の価格になったのです。
この当時、石油の決済通貨はドルでした。ニクソンショックで信用の揺らいだドルですが、暴騰した石油を買う為に世界は大量のドルを必要とし、ドルは信用を保つ事になります。これを「修正ブレトンウッズ体制」と呼ぶ人も居ます。ドルは「金兌換通貨」から「石油兌換通貨」と変容したのです。
石油ショックで高騰したのは原油価格だけでは有りません。世界各国で「インフレ」が発生しました。これは原油の供給制約によって発生した悪性のインフレで、成長力が低下していたアメリカやヨーロッパ諸国ではスタグフレーションを引きお越しました。「悪性のインフレ」です。
■ 高金利政策は通貨防衛だった? ■
石油ショック当時、物価高騰を抑制する為に各国中央銀行は金利を高く誘導します。
これはインフレ抑制という目的の他に通貨防衛の意味合いを持っていた可能性が有ります。レーガン政権発足当時の政策は「強いドル」でしたが、高めの金利誘導で米国債や米市場に資金還流をさせる事を目的としています。
これはブラジルやトルコなどの途上国で経済危機が発生した時、為替の下落と資金流出を防ぐ為に金利を引き上げる行動に似ています。
■ 金融市場の発展によってドルはツールへと変化した ■
1982年からは物価も落ち着き出したとして、レーガン政権とFRBは金利を下げ始めます。1985年にはプラザ合意によってドルの引き下げまで行っています。これは「弱いドル政策」とも言えます。
レーガン政権は初めてサプライサイドの経済政策を実施した政権です。この時期、アメリカは様々な金融工学を発展させて行きますが、従来の需給関係を重視した政策から、通貨の過剰供給によって金融市場を拡大する政策に転じたのです。
ドルの価値は「石油が買える事」から「金融市場のツール」に変化します。
■ 繰り返されるであろうオイルショック ■
「逆オイルショック」は一見すると原油安が進行する様に考えられています。中国経済の減速もあって、需要が減っている所に、原油が増産されるからです。
しかし、原油安は産油国の財政を直撃するので、サウジアラビアを始めとする産油国の財政はだんだんと疲弊して行きます。その影響は国民サービスの低下に繋がり、国民の不満が高まって行くと思われます。
イラクやリビア、シリアで共通するのは、強権で国家を支配していた指導者の排除です。中東諸国は部族社会で成り立っていますから、国家への忠誠心は実は薄い。仮に国家が国民サービスという求心力を失えば、途端に部族社会の存在が目立ち始めるでしょう。そして、宗派間の対立を国家がコントロール出来なくなります。
こうして、原油安による財政難は安定しているかに見えた中東産油国の社会を不安定化します。国家の求心力が薄れた場合、第一段階として国民への圧力を高めて暴動を抑え込もうとします。しかし、それが上手く行かない場合は、国家は外に敵を求め、愛国心を煽って求心力を維持しようとします。
サウジアラビアは先日シーア派の指導者を処刑してイランと対立しました。戦争の芽を大事に育てている状況なのかも知れません。
こうして、中東で戦争が発生すれば再び「原油価格高騰によるオイルショック」が発生します。
■ どうせガラガラポンなら派手に・・・ ■
私は遅かれ早かれ金融緩和バブルは大崩壊すると考えています。その様な大きな金融危機は、戦争によって責任がうやむやにされる事が多い。世界大恐慌が第二次世界大戦を生んだ様に。
次なる金融危機が発生するならば、同時に第二次世界大戦の遺物とも言える現在の世界が大きく変容する可能性は低く無いと思います。
その手段として戦争は便利であり、日本の安保法制もこれに関連した動きだと妄想しています。