虚空旅団の「ウイング再演大博覧會」参加作品がこの作品に決まった時、なんだかうれしかった。もう一度これを見たかったからだ。高橋作品の中でもこれは必見の一作である。初演を見て,これは高橋さんの最高傑作だと思った。もちろんその後も更なる傑作揃いだけど、彼女のキャリアのエポックであることは変わりない。そして再演するなら、絶対にこれ、って思った。
久々に再見して、あまりに小さな話に驚く。確かに小さな話だったはずだけど、こんなにも小さいなんて思わなかった。もっといろんなことがあった気がする。だけど今回再演のために書き換えたわけではあるまい。印象の中ではもっとたくさんなことが描かれていた気がするだけで、ほんとはこれだけのささやかさだったのだろう。物足りないのではない。びっくりしたのだ。記憶に残るこの作品と実際に再び見た作品との落差。いや、落差なんてない、かめしれないけど。
生まれる前に死んでしまった妹とのやり取り。兄とのやり取り。兄嫁とのやり取り。失われていく工場内の小さな坪庭。いくつかの会話の断片。ゆうまぐれの時間。ここはエレベーター設置のために潰されてしまう。それは仕方ない。年老いた親のためにわざわざエレベーターをつける。この町工場がいつまで続くかもわからないのに。
芝居では不在(敢えて登場しないし、直接には描かれない)の彼らの両親の存在や、この家に戻ってくる叔母のこと。さらにはここにはもういないチーコ。小さな芝居はさらに小さな出来事や関係性をそぎ落としていく。こんなにも彼らの話をさらりと描く。
いや、主人公である涼花(初演から引き続き得田晃子が演じる)や兄(福重友)だってさらりとしか描かれていない。だけど、それがいい。ここには夕暮れのちょっとした時間が鮮やかに切り取られている。それだけがすべてだ。
ラストの彼らがふたりずつエレベーターで3階に行くシーン。さらにはエピローグ、屋上での洗濯物を干す(取り入れる?)シーンがいい。こんなふうにして時は過ぎていく。