とてもありきたりな映画で、あっさりした映画でもあり、ここには驚きはない。でも、とてもここちよく、このありふれたラブストーリーは流れていく。恋の始まり、2人の幸福な日々、そして突然のお別れ。彼の死から始まる悲しいお話。でも、驚きの奇跡の再会から始まる第2章。そのまさかの展開も、驚きではなく、映画ならありえそうなよくある展開。そんな突っ込みどころ満載のストーリーをただただ素直に受け入れてこの96分の至福の時を過ごせばいい。これはそんな映画なのだ。
前2作である『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』とは違って、ありきたりなどこにでもあるようなラブストーリーを堂々と見せてくれる。でも、それをとても丁寧に作る。2人がデュエットするシーンのまさかのさりげなさ。湯浅監督は今回はこれがやりたかったのだな、と思う。
これはとても勇気のある映画だ。定番すぎるベタな話。それを何の臆面もなくやり遂げる。今の時代に、こんな映画が見られるなんて、なんだかとても幸せな気分。どこにでもありそうで、どこにもない、オーソドックスの極み。それが快感なのだ。多くを語ることはない。ただただこのラブストーリーに酔えばいいだけの話なのだ。