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今年の大阪劇団協議会プロデュースは劇団往来がイニシアティブを取る。というか、ほとんど往来の単独公演に近いスタンス。だけどいつもの往来とは一味違う作品になった。他劇団からのキャストは劇団未来の北条あすかくらいではないか。ベルトルト・ブレヒトの戯曲(翻訳は市川明)を鈴木建之亮が演出する。鈴木さんによる久しぶりの完全シリアス芝居。
1930年代,シカゴを舞台にして、とあるギャングのドラマをヒトラーの生き様に重ねて描く。要冷蔵が2時間ほぼ出ずっぱりの主演で走り抜ける。アルトゥロ・ウィ、彼は大物なのにいつもオドオドする。自分に自信がない。要はそんな男を見事に演じた。彼はスタイリッシユで空っぽ。これは実に難しい役どころである。
ただ芝居自体は、お話を詰め込み過ぎたため、あまりに暗転が多すぎてなかなかお話自体に入り込めないのが難点。多彩な登場人物もストーリーを追うことだけで一杯いっぱいで個々は描ききれない。せめて主人公のアルトゥロだけでもしっかり描かれていたらよかったのだが、それだって難しい。
彼が独裁者の道を突き進む姿をストーリーだけでなく内面の葛藤を介して描かれるならかなり面白い芝居になったはずなのだ。だけど早いテンポでお話が展開していくことで(そのこと自体はよかったが、)芝居全体が流されてしまうようになる。立ち止まれないままラストまで行く。その結果残念ながら彼の内的な心の揺れや揺らぎがきちんと伝わらない。あの衝撃的なラスト、彼が自分が殺した死者たちに囲まれても毅然とした姿で立つシーンが感動的にはならないのが惜しい。