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映画・演劇のレビュー

『愛の渦』

2014-04-06 19:31:06 | 映画
 実は『大人ドロップ』の前日にこの映画を見ていたのだが、あまりにあの映画が良すぎて、この映画を後回しにしてしまっている。しかも、どちらも、池松壮亮が主演しているのだが、この2作品が指し示すものが、青春の「光と影」みたいな感じで、別に2部作ではないだが、僕の中では池松2部作になっていて、本当はこの2作品を並行して論じたい気分なのだ。池松くんは表面的にはまるで感触の違うこれらの作品に於いてどちらの映画でも同じように暗い顔を終始している。同じ人物の数年後を演じたように見えるのだ。

 もちろん、「影」は、この映画なのは自明のことだろうが、だが、一概に『大人ドロップ』を青春の「光」を描いた映画だとは言い切れないのも、自明のことだ。あの映画が単純な青春映画ではないことは先に書いたとおりだ。明るく健全な青春映画ではない。だいたいそんな青春なんて、映画の中にしかないだろう。現実はそこまでノーテンキではない。『大人ドロップ』が描く高校時代は映画だが、リアルだ。ラブコメ・マンガのような単純さとは趣を異にしている。

 橋本愛のいろんなことをあきらめた少女と、池松壮亮の踏み出さない少年のラブストーリー以前の恋心を、前野朋哉のいろんなことを達観した少年と、小林涼子の別の方向へと踏み出す女の子を周囲に配して見せる。4人はまるで別々のキャラクターに見せかけて、実はみんな同じ、という構造だ。そんな4人の間にあるどうしようもないような距離が丹念に描かれていくから、あの映画は凄いのである。

 ただの「ひと夏の体験」ではない。「忘れられない恋」でもない。高校3年生という時代をそのまま2時間の映画として封じ込めた。あれは普遍性を持った(誰もが感じる、ということだ)的な象徴的なお話なのである。

 同じように『愛の渦』もまた、描かれるドラマ自身が大事なのではなく、そこに描かれる気分のほうが大事、という意味でよく似た青春映画になっている。エロチックな「乱交バーティ」を期待して、劇場に足を運ぶと肩透かしを食らうだろう。R-18指定にはなっているけど、これはポルノ映画ではない。

 どこにも居場所のなくなった少年がそこにいて、5時間を過ごす。これはセックスがしたくてしたくて仕方がない8人の男女(後で2人が追加されるけど)が集まり、ただやりまくる話、のはずなのだ。だが、ことはそんな単純なものではない。とても寂しい孤独な人たちがセックスを通して繋がろうとする。そういう幻想を見せる。バスタオル一枚で裸の男女がそこに集う。初対面で、目的はセックスをすることだけ。でも、彼らは変態ではなく、普通の男女で、恥じらいも、常識もある。セックスアニマルではない。だいたい、セックスというもの自体がある種のコミュニケーションだから、そこには、ただ行為するだけではないものが介在する。普通ならそれを「愛」なんて言ったりする。でも、初対面の彼らにはそれはない。だから、最初はぎこちない。だが、本音はただやりたいだけだから、本性が出る。だいたいそのためになけなしのお金を払ってここにきたのだから、やらなくては意味がない。

 なのに、池松は、ただ、下を向いて部屋のかたすみにいる。いじけているのでも、照れているのでもない。いたたまれないのだ。こんなことをしている場合ではない。明日の暮らしもままならない。これからどうして生きていけばいいのか分からない。来てしまった以上、何も考えず知らない女とただセックスだけをして5時間を過ごすべきなのだ。だが、そう出来るほど、ノーテンキにはなれない。面倒くさい男である。そんな彼が門脇麦演じる女子大生とセックスをする。彼女もまた、本当はこんなところにくるような女じゃない、と自分では思っている。でも、したくてしたくてたまらないから、来た。好きな男とセックスをしたい。でも、そんな恋人はいない。だから、思い切ってここに来た。でも、後悔している。そんな面倒くさい女だ。

 彼ら2人のここでの数時間が描かれる。(もちろん、ほかの8人のお話もあるけど、主人公はこの2人だ。)ラストシーンが切ない。朝になって明るい喫茶店で、顔を合わせる2人の姿を描く。そこから本当の恋が始まるのではない。これはそんなノーテンキな映画ではない。

 『大人ドロップ』と同じように再会を描くラストが用意されている。その符合が、なんだかうれしい。まるで何の接点もないはずの別々の映画なのに、池松つながりで双子のような映画に見える。

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