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映画・演劇のレビュー

『少年の君』

2021-07-23 19:40:03 | 映画

新鋭デレク・ツァン監督の渾身の力作。(なんと、彼はあのエリック・ツァンの息子だ!)こういう映画が中国映画界から生まれてくるのはうれしい。強烈ないじめ、受験戦争を背景にして、過酷な状況の中で生きる、そして、まるで違う世界で生きる、そんなふたりの男女の壮絶な恋物語が描かれる。

息苦しい。スクリーンから目を背けたい。だけど、目が離せない。彼らが何を選び取るのか。こんな現実のなかでも、お互いを信じてどう生き抜くことになるのか。これが今のこの国の現実なのだ。こんな世界で生きたくはない。でも、彼らはここで生きるしかない。この現実から逃れるすべはない。進学校での受験。そこは異常な世界だ。自殺した少女、彼女に服をかける少女はその行為のために虐めにあう。当たり前のことをした。それがこの非常識な世界では受け入れられない。

本来なら仲間のはずのクラスメイトの足を引っ張ることで、自分の地位を、自分のストレスを解消する。ゆがんだ心が支配する。主人公はこの理不尽ないじめに対して、大学に受かるまではなんでも我慢する。大学なんかどうでもいいじゃないか、と僕たちは思うけど、当事者である彼らにとっては人生の一大事だ。でも、それがゆがんだ行為をエスカレートさせる。それを誰も止められない。止めない。かかわらないほうがいいのか。デルク監督の前作『七月と安生』に続いて今回もチョウ・ドンユイがこの孤立無援のヒロインを演じる。(もちろんイー・ヤンチェンシー演じる不良少年だけが彼女を支えるのだが。)

最後の最後まで気を許せない。2時間15分の長尺だ。見ていて、もう息が続かない。あまりにえげつなくて吐きそうになる。でも、耐える。(彼らだけではなく僕たちも耐える。僕らは当事者ではない。所詮、観客でしかない。だからそれくらいのことは必要だ。)なのに、こんなにも苦しい。それが事実だ。このふたりがこの先どうなるのか。やはり最後までスクリーンから目が離せない。

ただのラブストーリーではないことは、わかりきっている。だけど、こんなにも美しいラブストーリーはない。この子たちの純粋な想いが胸を打つ。自分のこと以上に相手のことを大切に思う。でも、それは綺麗ごとではない。自分の人生すらかけた命がけの行為だ。でも、彼らは無言でそれを全うする。どれだけ傷ついてもかまわない。そんなことがありなのか? 映画の中だけのお話ではないか、と思うはずはない。こんなことがあるのか、と彼らを讃えたい。


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