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映画・演劇のレビュー

『一家の主』

2023-02-23 08:44:46 | 映画

これはなんだが不思議な映画だ。ある家族の物語。定年を迎えて毎日何もせず家にいる面倒な夫。暇なら家事手伝いくらいしろと思うけど、何もしないでいる。妻は家族の面倒を見て、家事もこなして、新しい家を探している。夫の親が亡くなり介護から解放されて一安心。今の願いは、施設から自分の母親を引き取りたいと思っていること。そのために新しい家を物色している。これは2022年の台湾映画。 Netflixで配信されている。こんな(地味だけど)面白い映画が台湾公開とほぼ同時に見られる。凄い時代になったものだと改めて思う。

 
幻のように現れて一緒に行動する母親が素敵だ。実際にはベッドにいる彼女が街を歩いていく。娘はそんな母を追いかけて行く。やがてふたりで歩いていく。ある時は昔暮らしていた家に行く。また、空港でこれからどこかに旅に行く。現実の光景と等価にこの幻の光景がさりげなく随所で描かれる。
 
主人公は今まで一生懸命生きてきて、子育てに、夫に世話に、そんなすべて自分が担ってきた。なのに家族は当たり前だと思う。自分を犠牲にして頑張ったのに誰も感謝しない。特に男たち。息子と夫。台湾でも日本でも同じなんだなとあきれる。映画は彼女を被害者として描くのではない。自分の人生を空しいと嘆くのでもない。静かに受け止めて、でもちゃんとこの先を生きていく。ラストではそんなささやかな覚悟が描かれる。だから僕たちは、これからは自由に生きようね、と応援する。
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