前半の最後のところで、号泣してしまった。これはやばい。誰もいない自宅の居間で読んでいてよかった。途中から嗚咽してしまったから始末が悪い。第4章のラストだ。祖母から、母親の死について教えられるところ。10歳の頃、母を亡くした。あれから8年。大学生になり、北海道の大学の獣医学部に入った。1年の夏、生まれてくるはずだった馬の赤ちゃんの死に立ち合い、ショックから自分には獣医は無理だと思い、逃げ出した。大好きな祖母のもとに。東京に帰り大学も辞めてしまおうと思った。だが、、まさか、そこからあんな展開になり、こんなにも心が震えるなんて。彼女も僕も思いもしなかった。そこには同じように母親の死、という事実が根底にあるからか。
彼女は自分に自信が持てない。不登校になり、中学には行かなかった。継母との関係が上手くいかず、部屋から出られなくなった。大好きな愛犬パールだけが生きがいだったが、もし祖母が助けに来てくれなかったら、死んでいたかもしれない。患獣という言葉が何度も出てくる。患者の動物のことだ。患者でいいのに患獣。区別している。獣医学科の学生にとってはその区別は大事なことなのだろう。この小説が描く普遍は主人公の聡里が引きこもりを克服して獣医を目指すというわかりやすいストーリーラインの向こう側にある。だから彼女が挫折して祖母のもとに戻り母のことを改めて知るというよくある定番の展開にあんなにも感応してしまったのだ。自分と母親の物語を重ね合わせてしまい、必要以上に心が震えた。犬や馬の死と母親の死は違うけど、同じ死であり、彼女にとってはどちらも等価な存在だった。だから彼女の母親と僕の母親も等価な存在。この小説は特別なことを丁寧に描くことで、普遍に行き着く。
これは18歳で大学生になった女の子がちゃんと獣医になり、30歳で結婚するまでの成長物語だ。どこにでもあるけど、どこにもない特別なあなただけの人生がここには刻まれる。