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映画・演劇のレビュー

プロトテアトル『ザ・パレスサイド』

2024-09-15 05:41:45 | 演劇

久しぶりに京都まで芝居を見に来た。最近遠くまで行くのが億劫になったみたいで、大阪以外にはなかなか足を運べない。だけど今回はペレイラさんの久々の新作である。えいヤァ、と気合いを入れて行くことにした。ロームシアター京都のノースホールはまるで穴倉の底のような空間だ。地下に向かっていくら歩いても辿り着かない。ここはこの芝居にはピッタリ合う劇場。そして、これは世界の果てにやって来た男の話。

彼はパレスサイド・ホテルにたまたま泊まる。予約もなく飛び込みで来た。その日は偶然一室だけ空いていたようだ。歩き疲れてここまで来た。ここでしばらく泊まる。後7日待てば上手くいく。何が? わからないけど、たぶんそういうことみたいだ。

電気が切れているからと真っ暗な館内を懐中電灯もなく、フロントマンに引率されて部屋を目指すシーンから始まる。この冒頭からもうあり得ない。このホテルの従業員は彼ひとり。それもあり得ない。これは現実ではなく幻想の世界だということがこの最初の真っ暗なシーン(声だけが聞こえる)からで提示される。ホテルの一室。上手にはベッド。中央奥にはドア。下手には金庫や冷蔵庫、テーブルになるスペース。どこにでもあるシングルの客室。

芝居はふたり芝居のスタイルをとる。だけどキャストは6人。(ほんとは7人だったけど、小島翔太が急病で降板した)6人がふたりを演じる。さらには最初のふたりが最後には入れ替わる。しかも途中から6人はそれぞれ2人の役を演じる。

だいたいあんなにも何度も部屋にやって来る従業員はいない。ただのおせっかいな男ということではなく、これは明らかに現実的な行為ではない。それを不思議なことにとして描くのでもない。この悪夢は彼の現実。だけど妄想。

こんなホテルはない。以前ここには宮殿があった。その宮殿の隣にこの豪華なホテルはあったみたいだ。だけど宮殿は無くなり、外壁だけが残った。(窓からはその外壁だけが、というか、外壁しか、見えない)しかもホテルは景観法から規模を縮小された(そんなことある?)ようだ。だからこれは以前のホテルではない。ただの廃墟。パレスホテルからパレスサイドホテルに。幻のホテルでの時間。何を待ち続けるのか。何ひとつ明らかにはされないまま、男はチェックアウトしていく。これはまるで秋成の『浅茅が宿』だ。(だけどあの話のようなわかりやすいオチはない)

ホテルマンと宿泊客。まるで噛み合わない会話。そしてそれは全く中身のない会話。ここにあるのは無意味な空白の時間だけ。彼は何者なのか。このホテルは何なのか。あのホテルマンは何なのか。いろんなことはまるで描かれないまま、彼はここを後にしていく。こんな芝居を見せられて(魅せられて)ことばを失う。


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