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映画・演劇のレビュー

『パンズ・ラビリンス』その2

2007-10-18 20:44:23 | 映画
 前回はあまりに簡単に書いたのでもう少し補足したい。

 あのギレルモ・デル・トロの映画とは思えないくらいに端正なファンタジーである。とても美しく哀しい。でも、デル・トロなんで、やはりかなりグロテスクで、残酷なシーンがいっぱいある。

 ただ、内戦下のスペインを舞台にして、(なんとエリセの『みつばちのささやき』を意識したらしい!)少女の不安と孤独に焦点を当てているので、グロが暴走することはない。

 少女と母親をこの森に導いたのは母の再婚相手である大尉である。彼はレジスタンスと戦いながら、この村を恐怖で統治する。母親が、こんなにも残虐な行為を極める冷酷な男と再婚し、苦しまなくてはならないのかが、少女には分からない。死んでしまった実の父親のことを懐かしく思いつつも、ここでの生活に馴染めないまま、身重で、病弱な母を助け、日々を送る。

 彼女がこの村にやってきた時、虫の姿をした妖精と出会い、導かれるまま、ラビリンスに入る。そこで、羊神パンに会う。彼女は、本当は地底にある魔法王国のプリンセスで、3つの試練を乗り越えると、そこに戻ることが出来る、ということを教えられる。

 現実と空想の狭間で、少女の物語は綴られていくことになる。現実のとんでもない悲惨さから、逃げ出すために空想に逃げる、というのではない。この空想の試練は現実の試練以上のものかもしれない。彼女はどこにいても立ち向わざるえない。幾多の試練の中、誠実に生きていこうとする姿が描かれる。

 とても重いタッチで、ラストもなんともいえない結末を迎えるが、この苦さは、この映画をただの夢物語ではない、高みに引き上げる。少女の死という現実をしっかり見つめた上で、夢の世界に導かれていく姿もしっかり描くラストは、とても哀しく美しい。それは単なるハッピー・エンドでも悲劇でもない。抑えたタッチで、静かに見せていくのはいいが、、ストーリーの展開が少し、単調すぎて時々眠くなってしまう。ハリウッドの娯楽映画のようなワクワクには敢えてしないから、こうなったのだろうが、もう少し緊迫感も欲しかった。

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