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映画・演劇のレビュー

『V.I.P.  修羅の獣たち』

2020-04-27 19:42:27 | 映画


凄い緊張感だ。冒頭の20分間、何が起きているのか、よくわからない。ただただ圧倒される。現在の香港からスタートして、チャン・ドンゴンが殺しに向かう。彼が一人目の主人公だ。3年前、北朝鮮の野原の小道。可憐な少女が歩いている。車に乗った男たちが彼女を拉致する。一家惨殺事件の現場。惨たらしい。なぜか担当した刑事は捜査から外される。彼が二人目。殺された少女の顔にカメラが寄る。拉致された少女だ。ということは、その瞬間はわからない。彼女の顔がそのまま、殺される前に戻る。何が起きたのかがそこで描かれることになる。凄惨で衝撃的な暴力シーンが描かれる。青春映画のワンシーンのような彼女の登場シーンと落差。何が起きたのか、信じられない。理解に苦しむくらいに目まぐるしい。ここまでで20分ほど、ようやくそこでタイトルが出る。主犯の男。彼で3人目。涼しい顔をして行う彼の行為に震える。だが、この映画が素晴らしいのは残念だが、ここまで。

そこから映画は本題に入る。3年前ソウル。河川敷の全裸の女の惨殺死体。ここで4人目の主人公が登場する。事件を担当する刑事だ。この4人がお話を紡いでいく。ここからお話が本格的に始まる。残酷な連続殺人鬼と彼を追う3人の男のそれぞれのドラマが展開していく。監督は『新しい世界』のパク・フンジョン。残酷なシーンのインパクトが凄すぎる。なのに、最後まで行くと、どうしてこんな結末になるのか、と少し呆れる。特に冒頭とリンクするラストだ。チャン・ドンゴンを無理矢理主人公にするためとしか思えない、とってつけたようなラストに啞然。

だが、冒頭はやはり凄い。静かな田園風景からいきなりの残虐なシーンという展開には驚いた。そのインパクトの凄まじさがこの映画をラストまで引っ張る。ただ、それがあまり意味を持たないのは残念だ。殺された少女はお話の切り口でしかない。でも、そのシーンのあまりの過激さと異様さはこの映画の中で一番異彩を放つ。

なぜこの男はこんな行為をするのか。そこはまるで描かれない。終始ニコニコ笑う彼の心の闇を追うわけではない。彼を追い詰めていく側の三つ巴のやり取りが映画の見所なのだろうけど。全体のバランスが悪すぎで、せっかくの映画が台無しだ。見終えてからもう一度、冒頭の20分を見直した。やはり凄かった。震えるくらいに怖い。あの緊張が最後まで持続するとこれは凄い傑作になったはずなのに悔しい。

 


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