『宙をわたる教室』がドラマ化されて評判になっている伊予原新の新作である。相変わらず科学がテーマになっているけど、当然お話自体が面白いから科学は苦手(化学はもう無理)だけど、ついつい手に取ってしまう。空、海、森という自然が背景になっているけど、そこに人もいる。僕は人の物語がいい。ここに描かれるものは人と自然の邂逅である。
今回は5つの短編集。最初の『夢化けの島』を読んで驚いた。科学と物語とが見事に融合して美しいハーモニーを奏でたラブストーリーになった。男女が出会う話だからラブストーリーと書いたが、ふたりはお互いの夢を追いかけた、だけ。それが一致しただけである。萩焼の土を探す男と、見島で岩石の研究を続ける女。幻の土を見つけることで再びこの地で焼き物を始める。それだけの話。これがとてもよかった。
その後の4編も同じ。奈良の山奥でニホンオオカミに出会うWebデザイナーの女性は上手く人とは付き合えない。だから東京から離れてこんなところまで来た。9歳の少年と出会い、幻のオオカミを探す。
誰もいない廃屋の中でひっそりと集められていた原爆の記憶。戦後焼け跡から収集した破片。ずっと忘れられていたものと出会う。
さらには、隕石を探すことを巡る出来事を描く話。最後は海亀が帰るのを待つ少女たちの物語へと続く。5つの話を読み終えた時、僕も大切なものを守り続けることに想いを馳せる。自分にとって大切なものは何か、を。