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映画・演劇のレビュー

『地獄の花園』

2021-05-27 10:34:09 | 映画

『架空OL日記』が素晴らしかったので、バカリズムが再びOLに取り組む新作映画であるこの作品も、もしかしたら凄いものかもしれないと、少し期待はしていたけど、予告編とか見ていて、こんなバカバカしい映画をよく作るな、と呆れるばかりで、期待は急速に萎んでいた。ヤンキーOLたちの抗争を描くドタバタコメディ映画なんかに可能性は全く感じない。

永野芽衣や広瀬アリスが大挙してTVに露出して宣伝活動を繰り広げていたが、その騒々しいバラエティ番組をなんとなく見ながら、宣伝のためといえ、大変だな、と気の毒になる。そんなこんなで、実はあまり見る気はなかったのだが、緊急事態宣言のおかげで、見る映画があまりなくて、たまたま時間が合ったので、見た。絶対つまらない、と思ったのに。(じゃあ、何で見る?)

だが、映画は思いもしない作品になっていた。これだから、見なくてはわからない。役者たちが必死に宣伝する気持ちがよくわかった。これはとんでもない映画だったのだ。なんと冒頭からほぼラスト近くまで、どんどん予想なんかを見事に裏切る展開で驚く。先はわかっているのに、それが微妙なところで読めない。荒唐無稽で凄く面白いのだ。

確かにバカバカしい映画なのだけれども、それが作り手の狙いで、ちゃんとこのバカを期待通りに描いている。エスカレートしていく戦いはこの手のヤンキーマンガの定番なのだろうけど、そこを承知しながら、単なるバトルには終わらせない。だいたいOLたちがヤクザまがいの抗争を繰り広げるなんていうおバカな設定だけで笑わせるのには限界がある。すぐに飽きる。そんなことも最初からわかっていることだから、その裏をっく。

バトルシーンのテンポのよさと、現実との落差をさらりと同じ土俵で見せていく。仕事をしながら、バトルもする。『架空OL日記』で見せたようなOLライフをきちんと見せつつ、同時進行で加速していくOLヤクザ抗争劇も見せるのだ。かたぎのOLとやくざのOLはちゃんと共存して企業のなかに自然にいるという世界観を提示する。それは男でしかないバカリズムが女として誰にも不思議がられることなく会社に通う『架空OL日記』のルールと同じだ。みんなが普通に働く会社の中で、ふつうにヤンキーOLたちがバトルを繰り広げる。

かたぎOLの永野芽衣がヤンキーOLの広瀬アリスに巻き込まれていくという展開も定番だ。だが、そこから永野芽衣が覚醒して本性を発揮していくという後半の展開は見事。そこから一気にエスカレートいていくお話も上手い。もうこれは『ドラゴンボール』である。強い奴が続々と登場して次から次へとなぎ倒していく爽快感。ラスボスの小池栄子登場から、ふたりの壮絶なバトルへと一気に流れ込んでいく。これはコミックのノリを十分理解した上で、そこを逆手にとって見せるのだ。実にうまい。

ヒロインが圧倒的に強いというのもいい。だから、下手に戦いを長引かせない。だってどんなに凄いバトルだってずっと続くとすぐ飽きる。作り手側はそんなこと承知の上なので、そこはちゃんと端折ってくれる。冒頭で会社の3人のボスたち(ふつうならここはお話の入り口だからちゃんと描くところだ)を叩きのめすところの端折り方は笑えた。しかもヒロイン(というより、ヒーローだ!)は最初は広瀬アリスで、永野芽衣はナレーション担当の脇役的設定である。どこでどういうふうに逆転するのかしないのかでも、お話を引っ張れる。さすがバカリズムである。彼の見事な台本を得て、監督の関和亮はそれをしっかりとビジュアル化する。そこに変な演出家の想いを乗せたりはしない。さらにはこの茶番をふざけずにマジで演じきった役者たちも素晴らしい。

それだけに、終盤、広瀬アリスが再登場したシーンからラストまでのお話がもたもたしてしまったのは、残念だ。結局はこのふたりのバトルをクライマックスにするというよくある終わらせ方になる。そこまでの見事な展開をラストで裏切るのだ。定番がよくないというわけではないけど、そこまでのひねりがここにはないのはなぜだろうか。『架空OL日記』もラストの展開に納得いかなかったが、今回もまた同じ轍を踏む。シュールなまま終わらせてもいいじゃないか、と思う。わかりやすいオチなんかいらない。それまで散々わけのわからない世界をふつうに展開したのだから、最後までそれを貫いてもいいと思うのだけど。


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