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この芝居を見る直前に見た道化座の『わが家の客』は凄い傑作だったけど、これもまた、別の意味で凄い作品だった。あれは中ホールでの公演で大作だったけど、こちらは小劇場での公演で小さな芝居だけど、同じように思いがけない傑作だった。これを見逃さなくてよかった。(西宮で芝居が6時に終わり、長堀橋でこの芝居が7時に始まるというタイトなスケジュールで、もう間に合わないのではないかと心配したけどちゃんと間に合った!)
時代は1970年前後、少女漫画の世界に飛び込んだ2人の女の子たちの物語。作、演出はなんと猫のお尻(懐かしい!)の大前田一。
こういう丁寧で誠実な作品と出会うと、とても嬉しい。すべての芝居がそうであるといいんだけど、なかなかうまくいかないのが現実だろう。だれだって失敗作を最初から作ろうとはしていない。でも、なかなかうまくはいかないのが現実で、見ていてがっかりさせられたり、残念だな、と思うことは多い。だけど、この日のように、連続してみた2本が別次元で同じように成功しているのを見ると、芝居も侮れないな、となんか偉そうな感想を心の中で感じてクスッとしてしまう。
本当に楽しかった。この芝居を見ている95分間、その日初めて出会ったふたりの女の子の数日間のお話に引き込まれて至福の時を過ごせた。タイトルとは裏腹に、あまりに楽しくて「終わらせないで」と願っていた。金沢から漫画家になるため東京に出てきた少女と、東京で漫画家を目指してアシスタントをして暮らしている少女。ふたりが過ごす数日間。夢のような時間。少女漫画家としてデビューして、この世界で羽ばたく。
ふたりはライバルで、同志で、親友。同じように漫画家を目指して頑張る。現実はこんなふうに簡単にうまくいくわけではないだろうけど、この心地よい芝居を見ながら、これはただの夢物語ではなく、これも確かな現実だと思わされる、のがいい。こんなふうになれる可能性だってちゃんとあるのだ、と信じられる。夢は現実に潰されていくのではなく、夢を現実にしていくこと。大事なのことはそういうことではないか。それを甘いというのなら、甘くてもそれがいいと言いたい。夢を見て現実を直視しないのではなく、ちゃんと夢を見て生きていく。
この芝居の最後は「いいからはやく終わらせて(原稿を仕上げて)」というところに当然落ち着く。徹夜で締め切りまでに漫画を描かなくてはならないから。なんだかそんな気負わないさりげないオチすら素敵だ。