これは久しぶりの瀧和麻子だ。だけど今回はまるで重松清みたいなお話。またまた6話からなる短編連作。この手のパターンにはいささか食傷気味。まぁそれなら本格長編を読めよ、と言われそうだが、そちらにはあまり読みたいものがない。
さて、今回は亡くなった校長先生を巡る物語。先生は定年退職後、しばらく再任用で働いた後、完全引退し、ひとり暮らしをしていたが、75歳で亡くなった。これは6人の彼女に教えてもらった(生徒だけではない)さまざまな世代の生徒たち(大きな意味での生徒である)のお話。
ここには高村先生のさまざまな一面が描かれている。まだ若かった先生、校長になってからの先生、仕事を辞して自由人になった先生、等々。その意外な一面にも涙する。先生に接して何かを得た。それはとてもささやかなことかもしれない。偲ぶ会までの日々を描く6編はまるで異なるアプローチをしている。
語り手の立ち位置もさまざま。実は教え子はほとんど登場しない。先生としての彼女ではなく、先生だったけど、先生ではない彼女の話の方が多い。息子の担任、たまたまライブで出会った女性、先生の娘さん、教育実習に来た学生、同僚だった先生の孫娘まで。思い返すと、直接教えてもらった子どものエピソードは皆無だった。
これは重松作品のような(よくある)お話のように見せかけて、まるで従来のパターンとは異なる作品になっている。美談ではない。この校長先生は特別な人ではなく、どこにでもいる、だけど素晴らしい人。それだけ。もちろんそれだけで充分。