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取り壊しの決まった団地。もう既に住人の引っ越しはすべて完了し、ここには誰ももういない。ある夫婦がここに戻ってくる。忘れ物を取りに来た。2人はここを出ると同時に離婚する。だが、夫にはためらいが残る。別れたくはない。この自分たちが住んでいた部屋に、なぜか今、ひとりの青年が住んでいる。彼はかって子ども時代にこの部屋で暮らしていたらしい。幸福な少年時代の思い出がここには詰まっている。今では壊れてしまった家族の記憶をたどってここまで来た。部屋にはこの3人以外に、もうひとりいる。この部屋の妖精のような、座敷童のような、そんな女だ。彼女の存在は当然見えない。部屋の中に残るかすかな雰囲気。時は移ろい、この同じ場所が今では老人養護施設となっている。だが、今でもここにはあの女がいる。この場所に彼女は居ついているようだ。そして、そこで暮らす人々を見守り続ける。彼女はずっとここにいる。
2つの時間。2つのお話。それらは主人公も違うし、まるで別々の出来事なのだが、確かにつながっている。それは場所の問題だけではない。1話目の夫婦の子どもが2話でこの老人ホームの介護士として働いているということだけではない。(あの夫婦には、あの時まだ子どもなんかいなかったから、あの後出来たということだろう。ということは、あの後2人は離婚しなかった、ということにもなる!)ここでは1話目の青年が老人となっており、このホームに収容されている。いったいどれだけの時が過ぎたのだろうか。2話目は、ここで暮らす記憶を失っていく老夫婦の周辺での出来事が静かに描かれる。
部屋の片隅に落ちていたボタン。果てしない時間の経過。そのなかで人は老いていく。時間と場所を巡るこの物語はある種の終末に向けての「人のこころありかた」についての物語だ。そして、この2つの話は失われていく時と場所、命を巡る物語なのだが、この作品の中に共通するイメージがひとつにつながった時見えてくるものは、変わることのない日常の中にある目に見えない大切なものの存在である。それはタイトルにもさりげなく象徴させてある。
2つの時間。2つのお話。それらは主人公も違うし、まるで別々の出来事なのだが、確かにつながっている。それは場所の問題だけではない。1話目の夫婦の子どもが2話でこの老人ホームの介護士として働いているということだけではない。(あの夫婦には、あの時まだ子どもなんかいなかったから、あの後出来たということだろう。ということは、あの後2人は離婚しなかった、ということにもなる!)ここでは1話目の青年が老人となっており、このホームに収容されている。いったいどれだけの時が過ぎたのだろうか。2話目は、ここで暮らす記憶を失っていく老夫婦の周辺での出来事が静かに描かれる。
部屋の片隅に落ちていたボタン。果てしない時間の経過。そのなかで人は老いていく。時間と場所を巡るこの物語はある種の終末に向けての「人のこころありかた」についての物語だ。そして、この2つの話は失われていく時と場所、命を巡る物語なのだが、この作品の中に共通するイメージがひとつにつながった時見えてくるものは、変わることのない日常の中にある目に見えない大切なものの存在である。それはタイトルにもさりげなく象徴させてある。