習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『家族』

2025-03-16 08:16:00 | 映画
1970年の作品である。山田洋次は『男はつらいよ』をヒットさせてそのご褒美に自分が本当に「今」作りたい映画を作った。そしてこの後、『故郷』『同胞』と続く3部作が作られた。あれが映画作家山田洋次のキャリアにおけるクライマックスだった。僕が劇場でリアルタイムに見たのは『同胞』だけだけど、そこには間に合った。今更ながらよかったなと思う。あの時代の目撃者になれた。

こんな映画をよくあの時代に作ったものだ。感心する。まだ若かったから出来たのだろう。40代の円熟期、日本映画界の巨匠になる前の頃。山田洋次がドキュメンタリータッチの映画を作るなんて後にも先にもこの作品だけである。(『故郷』も同じパターンだけど少しお話が前面に出てくる。『同胞』はさらにお話に傾く)

日本列島を縦断して旅する家族の5日間。長崎の離島から北海道の大地まで。4月6日から10日まで。そして2ヶ月後のエピローグまで。根釧原野の開拓村での終盤のドラマも胸に痛い。ラストの前にあそこでの日々の描写があるのを忘れていた。東京での幼い娘の死だけでなく、笠智衆の祖父の死を描く。到着と同時に緑の大地が描かれると記憶していたから今回見て衝撃を受けた。

万博会場のシーンも痛ましい。梅田の地下街のエピソードは当時強烈な印象を受けたから鮮明に覚えていた。自分がよく知っている場所が映画の中で描かれるのが興味深いことだったのかもしれないが、あの人混みの中で茫然とする彼らの姿が心に沁みた。

これは55年前の映画である。僕にとっては50年振りの再会である。(いや、20代の頃に劇場でも見ている気がするけど)初めて見た日から50年という月日が過ぎたのは事実だ。そして山田洋次はまだ現役で新しい映画を作っている。もちろん僕もあれから50年すべての山田洋次作品をリアルタイム(封切で)劇場で見ている。


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