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映画・演劇のレビュー

山本幸久『ある日、アヒルバス』

2013-01-12 23:07:47 | その他
 これはバスガイドを主人公にした「青春小説」だ。このたわいもない小説を読みながら、なんだか、心がドキドキした。こういう甘くて、緩くて、どうでもいいような小説って、しばらく読んだことがなかった気がした。最近は、なんだか、もっと切実で、ある種のテーマが垣間見えて、重いばかりの小説を読んでいた気がする。もちろん、僕の読むような小説なのだから、そんな難しいものはない。でも、このノーテンキは、あまり類を見ない。

 お気軽な小説だ、というのではない。彼女にもいろいろ悩みはある。だが、その悩みの質がなんだかほのぼのしている。そして、彼女働くバス会社も、世知辛い今のご時世にそぐわないような、結構なんだかノーテンキなのだ。今の時代にこういう雰囲気の会社があるのなら、なんだかとてもうれしい。もちろん、この会社にもいろいろたいへんなことはある。これはただの夢物語を書いているのではない。

 でも、なんだか昭和の香りがここには漂う。それも1960年代だ。主人公の秀子(大体この名前からして平成ではない! 作者のイメージでは、これは明らかに「高峰秀子」であろう)は、ドジだけど、でも、とても頑張る女の子だ。映画化したなら、60年代の吉永小百合とかが、演じるべきキャラクターである。この小説の映画化作品は、すでにあの頃の日活青春映画の中にもうあるのではないか。

 新入社員の教育係に任命されたデコちゃんが、5人の困った女の子たちを鍛えて一人前のバスガイドに仕立てていく、というストーリーだ。いまどきこんなお話で小説や映画は作られない。でも、こういうのは確かにあるし、(あった?)あるべきだ。会社は人間を作る場所でもある。学生から大人になるための試練としての会社という場所は必要なのだ。会社は営利団体だが、そこで働く社員はただの使い捨ての駒ではなかったはずだ。そんな、本来あるべき姿がここにはある。でも、今の時代はそんなことを言わせないほど世知辛い時代になってしまったようだ。だからこそ、こういう小説や、できることならこういう企業がたくさん出来て欲しい、ものなのだが。


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1 コメント

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Unknown (二俣小彌太)
2013-01-12 23:59:18
「秀子の車掌さん」ですね。但し,20代の小百合さんだとすると、60年代後半、もうバスガイドものは無理でしょうね。
吉永小百合の60年代後半の作品は、もう少しきちんと評価されるべきだと思うのですが。
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