習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ちゃんと伝える』

2009-08-30 21:05:00 | 映画
 園子温がこんなタイプの映画を作るなんて誰も思いもしなかったろう。だいたい本人だって作っていながら、そんな自分に驚いているはずだ。これは、ありえない。だが、そんな映画が作られてしまった。それも事実で、しかもこの思いがけない映画が、予想に反してこんなにも感動的で泣かされるだなんて思いもしなかった。

 確信犯的なものではなく、題材と向き合っていくうちに自然とこういう映画が作られることとなった、らしい。最初から「難病もの」のオファーがあったわけではない。そりゃそうだろう。園子温にそんな企画が行くとはとても思えない。「EXILEのパフォーマーAKIRAが主演する」ということがこの企画の出発点で、それが園子温に持ち込まれた時の条件だったのだろう。なのに彼はこの映画で「EXILEのAKIRA」というイメージを払拭する。そうすることで反対に彼の新しい魅力を引き出すことにも成功したのだ。だが、そんなことは瑣末なことでしかない。この映画はあくまでも園監督のプライベート・フイルムなのだ。そんなふうになったにも関わらずこの企画にGOサインを出したこの映画のプロデューサーは偉い。

 父親の死、という事実を元にして、個人的な心情を吐露する映画を敢えて作る。それが見ていて不自然でも、無理でもない。とても自然だ。彼は自分が生まれ育った風景にカメラを向けて、父の死というあまりに個人的な問題と真正面から向き合う。こういうアプローチは彼にとって、デビュー作『自転車吐息』以来のものなのかもしれない。

 作品としては、一応「難病もの」と括られそうだが、いつもの暴力的なアプローチを退けて自分に課せられた困難な状況と真摯に向き合っていく姿を丁寧に見せていく。あまりに当たり前すぎて、それが新鮮ですらある。ありきたりと言われかねないような状況、ドラマを用意して、そのワンパターンに鼻白むほどの展開なのに、そうはならない。

 父だけではなく、自分もガンだった。しかも、自分の方が先に死ぬかも知れない、というあまりにご都合主義的な展開にすら納得してしまうのだ。そして、ラストで死体を連れて釣りに行く、なんていう突飛な行動すらリアリティーの流れの中にすっぽりと納めてしまう。主人公の心情に寄り添って作ってあるからそうなるのである。AKIRAはその嘘くさいくらいの普通ぶりで、驚かされる。冗談だろと思うくらいの自然体に納得させられる。この映画のアプローチはいろんな意味で凄い。冗談と紙一重くらいの真実をここに感じる。その真実の重みが映画を成功に導いた。そして、そんな綱渡りのような映画にドキドキさせられたのだ。
 

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