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映画・演劇のレビュー

『ビブリア古書堂の事件手帖』

2018-11-05 22:01:15 | 映画

 

三島由起子監督がこういうエンタメ映画にチャレンジするということで期待した。タッチは抑えた地味めで悪くない。だけど、お話の方があまりといえばあんまりな展開で、さすがにこれではついて行けない。古書を巡るミステリーだと思って見ていたのに、お話が完全に嘘くさくて乗れない。鎌倉を舞台にして、雰囲気自体は悪くないだけに残念だ。

祖母の死から始まって彼女の残した古書を巡るミステリーが展開するのだけど、回想で挿入される1964年のエピソードが、乗り切れないから、お話自体が壊滅する。漱石の『それから』にまつわる謎、祖母の道ならぬ恋がそこに重ねられるのだが、まずそこが絵空事でしかない。しかも、太宰の『晩年』の初版本を巡るお話がちゃんと絡んでこないから、とって付けたような印象になる。

 

これはファンタジーなのだと、わかっているけど、それにしてもお話がここまでいくと嘘くさ過ぎて心地よくならない。舞台となる古書店は、それなりに雰囲気は出ているし、鎌倉の古い町もこの映画の舞台としてはよく機能している。ファンタジーとしての舞台装置はできている。だが、それだけだ。本のことしか見ていないヒロインの黒木華と、彼女に心惹かれるが、本が読めない野村周平という設定をスタート点として、2冊の本を巡る人間模様が描かれるけど、上手く出来すぎ。そんな都合よくすべてが繋がるわけもない。狭い町の、狭い人間関係ですべてが収まるのはどうだかなぁ、と思う。事件が起きているのに警察とかは一切関与しないし。

 

ただ、現実世界に背を向けて本の中だけで充足して生きている女性が、ひとりの青年を通して現実世界に目を向けるというわかりやすい設定を生かせたらもう少し面白い映画に出来たかもしれない。僕も彼女と同じように映画や本が人生の中心で現実世界を生きていないから、共感するところがないわけではないけど、自閉するばかりの人たちのお話というのは、なんだか息苦しい。映画の世界で引き籠もっていたくて映画館にいるのに、その映画館が息苦しい空間になるような映画ってどうよ、と思う。現実逃避の映画からさらに逃避したくなる。居心地の悪さ。

 

 


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