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映画・演劇のレビュー

ババロワーズ『スペースラビットハンバーガーシステム』

2009-11-01 20:22:34 | 演劇
 高瀬さんが普通にお芝居を作っている。しかも、かなりウエルメイドなエンタメである。お話がしっかりしていて視覚的にも楽しい。(今回の舞台美術はクロムの美術を手掛けるステファニー)ワクワクしながら作品世界に引き込まれていく。とてもババロワーズとは思えない、なんて言えば高瀬さんに失礼か、とも思ったが、それって褒めてるわけでもないが、貶しているわけでもない。かなり微妙な立ち位置に置かれている。それは、もちろん見ている僕の話だ。これをどう受け止めたらいいのか。難しい。いいとか悪いとはいう問題ではなくこの作品の方向性がババロワーズにとって好いことなのか否かが微妙なのだ。

 コント芝居であるところに高瀬さんの魅力があるのだから、ちゃんとした筋立ては邪道だなんて、言わないが、主人公がある危機的な状況に追い込まれたり、劇的なドラマがあったりするのは彼の作品らしくない。つまらないのではない。面白いのだ。だが、これではなんだかどこにでもありそうな芝居にも見える。

 とはいえ、物質転送装置とかいうアホらしいものが出てきて、ついに高瀬さん本人が登場し、コント的なシチュエーションのもとで、セリフを覚えてこないといういつものパターンを演じ、グダグダの芝居を展開していくと、俄然おもしろくなる。みんなが必死になって彼に合わせていくという即興的展開になる。(自分が書いた台本なのに、セリフを本人が覚えていないだなんて、本当なら許せない話だが、彼がやるとそれだから余計に面白い、ということのなる。まぁ、共演するみんなは本当に困るのだか)結果的にどこまでが本気で、どこからがアドリブなのか、わからないままこの転送機で次々にいろんなものを転送していくことになる。というか、次々へんなものを呼んでくる。この部分が、芝居の本筋とはあまり関係ないのに(それゆえか)笑える。ハエ男からの連想でサルとか、ゾウとか、そして最後にウサギへとつなぐ。バニーガール3人組登場で、お話の本題につなぐのだが、相変わらずの高瀬ショーは好調である。

 ここから話は本題に移り高瀬さんはもう出ない。そして、15年の時間を隔てた2つのお話がひとつになることでクライマックスを迎えるのだが、2つの話の整合性が上手くいかない。15年前から物質転送機があったという事実と、今回それが実用化されていくという経緯が説明不足。15年前からこの装置で人間を月に秘密裏に移住させていたという事実が作品全体にどう影響を与えるのかが明確ではない。転送によって記憶が失われるという設定も機能しない。ハンバーガーショップがその装置を研究所と業務提携し実用化していくという話は現在の話で、では15年前から行われている人間の転送とどうかかわるのかが、これではわからない。

 ラストのオチもそこが曖昧だからあまりインパクトはない。主要キャラクターに対してももう少し因果関係も含めての肉付けが必要だ。これではドラマが書き割り化してしまい、せっかく作り上げた物語とその構成が説得力を持たない。それでは残念ではないか。

 話自体はウエルメイドに仕立てながらも、それだけには収まらない、というところにババロワーズの魅力があるのだから、芝居全体を破壊と構築でバランスを取りながら、そこに不安定で不思議な世界を作れたならおもしろいと思う。その可能性はここには十分にあった。

 

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