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映画・演劇のレビュー

『シルク』

2009-11-01 20:11:01 | 映画
 これは台湾で06年№1ヒットを記録した映画らしい。日本でも昨年台湾映画コレクションとして上映された。『ダブル・ビジョン』の脚本家スー・チャオピン監督作品で、江口洋介とチャン・チェン主演のSFホラーである。日本人キャスト、スタッフが参加した新感覚ホラーが台湾で評判になるなんてなんか自分の手柄ではないのに鼻が高い。それは昨年の田中千絵が主演した台湾映画史上最大のヒット作『海角7号』も同様だ。まぁ、自分が台湾のことが好きなように台湾の人も日本が好きだと思ってくれるとなんだか嬉しい。

 さて、この映画である。幽霊を保管して彼の行動を見極めることで肉体から遊離して自由に生きる方法を見出すための研究をする物理学者の話なのだが、それってなんだかなぁ、と思う。冗談のような荒唐無稽を結構本気にリアルなタッチで見せようとする。種田陽平の美術が素晴らしいから、それなりには楽しめる。あの不気味な廃墟のアパート。江口はそこを研究所として使う。ガラス張りの閉ざされた部屋で幽霊の少年が三角座りする。

 彼を見守り研究に没頭するマッド・サイエンティストが江口洋介。彼を助けて幽霊少年を追うのがチャン・チェンの刑事。少年がなぜ幽霊になりこの世に留まり続けるのか。その謎を追いかけながら、霊が存在する秘密を解き明かすというホラー・ミステリー。

 映像は美しく、ショッキングなシーンを随所に織り込んで切ない母子の物語へと収斂していくのだが、最後のまとめ方が少し強引過ぎた。チャン・チェンと彼の寝たきりの母との話を、少年とその母の話に絡めたのはアイデアとしては悪くはないが、大事なそこが上手く機能しない。さらにはチャン・チェンと江口の対決をドラマの核心に持ってきて、江口の自分の肉体の不倶(足が悪いから自由に動けない)への拘りとそこから自由になることで得るもの、さらには永遠の命と限りある命のせめぎ合いの中で、彼らが最終的に手にするもの、そこをしっかりと提示してくれなくては、これはただのホラーにしかならない。アイデアは悪くないし、頑張っているだけに残念な仕上がりだ。


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