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映画・演劇のレビュー

鹿島田真希『ピカルディーの三度』

2007-10-07 23:46:51 | その他
 スカトロもの、なんていうのも憚られるくらいに、なぜだかとても爽やか(な、わけないのに)な小説だった。音大受験のため、個人レッスンを受けにいく。そこで出逢った先生を好きになる。これって『個人教授』の世界だわな。

 しかし、先生は全く教えることには興味がなく、いきなり「洗面器にうんこをして見せなさい」なんて言う。そのあまりのことに驚き、羞恥を感じつつも(あたりまえだ)先生のためにそこにうんこをする。先生は僕のうんこを愛おしそうに見つめる。僕は僕が排泄したものに激しい嫉妬を感じる。

 こんな話ありですか?しかも、その先生ですが、実は男です。とりわけ美しいわけでもない普通の男性だったりするのだ。僕は先生に愛されたいと思う。だから、毎回レッスンの度に先生の前で排便をする。先生に褒められたい一心で。

 いつか先生の体に触れたい、いっしょに裸で抱き合いたい、と願う。ここだけとると普通のラブストーリーではないか。だいたいこれは純愛物語なのだ。この小説は2人の愛の軌跡を変態として描くことはない。とても自然なこととして描いていく。だからなんだか清々しかったりもするのだ。

 最初の短編『美しい人』がとても気持ちのいい作品で、この作品集の入り口としてこの作者の姿勢をよく伝えてくる。だからこのタイトルロールの異常なドラマがとても素直に心に入ってくるのかもしれない。といっても『美しい人』も、13歳の妹が2つ年上の兄のことを心身ともに好きになっていく、という気持ちを静かに描く短編で、プラトニックで止めたら綺麗な初恋ものになるのに、もう1歩踏み込んでいくから、あやうい話になってしまう。バランスを崩しそうで崩さないその微妙なところがいい。それを更に2歩、3歩踏み込ませたのが『ピカルディーの三度』なのだが、ここまで踏み込んだのに、やはり崩れないのは凄い。

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