深川栄洋監督の新作。イッセー尾形を主演に迎えた。彼が主人公を引き受けただけでも、見る価値のある作品だと思う。『太陽』以来9年振りとなる。彼を起用するのは、なかなか難しいはずだ。彼の持ち味をうまく活かせたならそれだけで、凄いものになろうが、それだけの力量のある監督は今の日本にはいない。市川準監督亡き今、深川監督がその重責に挑み、成功した。
独自のスタンスを持つ彼のキャラクターを活かすには、それだけの企画と台本が必要だったはずだ。深川監督は自由な裁量を彼に与えた(ようだ)。退職した、頑なで融通がきかない校長先生。妻(もたいまさこが適役)を喪ってから、ますます頑固になり、周囲から煙たがられている。だが、本人はあまり自覚していない。尊敬されているとでも、思うか。いや、それすらも、ない。ただ、自分のペースで生きるだけ。イッセー尾形が、姿勢を正し胸を張って歩く姿を見るだけで、彼の来し方、行く末までが、目に浮かぶ。
そんな彼の行為を映画は見守る。それだけで、なんだか緊張する。映画は最初、なかなかイッセー尾形を見せない。もうひとり(?)の主人公である猫の姿を追う。始まってかなりたったところで、さりげなく登場する。実にうまい見せ方だ。周囲にまぎれて、彼がいる。そういうスタンスで映画は始まる。猫がいなくなるまでの、ただの日常を描くシーンが素晴らしい。ずっとそのままドキュメンタリーのような映画であればいい、と思ったほどだ。主人公は物言わぬ猫でいい。イッセー校長はわき役に甘んじていい。
しかし、そんな、彼がいなくなった猫を気にかけ、探し始めることから、変わり始める。彼がふつうに主人公になる。猫はいなくなり、もう出てこない。映画は彼が反省して、性格が変わるとか、そんな単純なことではないことは必至だ。だが、自分がどんな風に周囲からみられていたのかに、初めて気付く。
多彩な登場人物を絡めて、人情劇ではなく、まるでドキュメンタリーのようなタッチで感情の起伏を極力排してこの小さなドラマを描いていく。地方の寂れた町を舞台にして、そのロケーションを主役にしたような映画を作る。猫も人もこの町の風景の中にしっかりと収まる。猫がかわいい、とか、いう映画ではない。地域猫(飼い主のいない)姿を通して、彼らの存在がその町の人たちを支えている姿を、押しつけがましくはなく、さりげなく描くというこの映画のスタンスがいい。それだけに、ドラマチックになる、後半が惜しい。
まだ若い深川監督は八千草薫主演の『くじけないで』といい、(『60歳のラブレター』まである、)これもまた、実に見事としか、いいようのない映画を作る。老人を主人公にした映画を作らせてもそこにはまるで違和感がない。
それから染谷将太がまた、ここでもいい味を見せることも付記したい。彼はあれだけ主役をこなしながらバイプレイヤーとしても、最高だ。今、若手ナンバーワン俳優だろう。くせのなさが、どんな役を演じても、うまくその世界に溶け込むことを可能にする。しかも、リアルで存在感がある。なかなかそんな役者はいない。
それだけに、映画が後半ただの猫探しに終始するのはもったいない。お話の展開としてはそれでいいのだが、それだけを描きながら、それだけに終わらさない『何か』が欲しかった。それってないものねだりなんかじゃないはずなのだ。
独自のスタンスを持つ彼のキャラクターを活かすには、それだけの企画と台本が必要だったはずだ。深川監督は自由な裁量を彼に与えた(ようだ)。退職した、頑なで融通がきかない校長先生。妻(もたいまさこが適役)を喪ってから、ますます頑固になり、周囲から煙たがられている。だが、本人はあまり自覚していない。尊敬されているとでも、思うか。いや、それすらも、ない。ただ、自分のペースで生きるだけ。イッセー尾形が、姿勢を正し胸を張って歩く姿を見るだけで、彼の来し方、行く末までが、目に浮かぶ。
そんな彼の行為を映画は見守る。それだけで、なんだか緊張する。映画は最初、なかなかイッセー尾形を見せない。もうひとり(?)の主人公である猫の姿を追う。始まってかなりたったところで、さりげなく登場する。実にうまい見せ方だ。周囲にまぎれて、彼がいる。そういうスタンスで映画は始まる。猫がいなくなるまでの、ただの日常を描くシーンが素晴らしい。ずっとそのままドキュメンタリーのような映画であればいい、と思ったほどだ。主人公は物言わぬ猫でいい。イッセー校長はわき役に甘んじていい。
しかし、そんな、彼がいなくなった猫を気にかけ、探し始めることから、変わり始める。彼がふつうに主人公になる。猫はいなくなり、もう出てこない。映画は彼が反省して、性格が変わるとか、そんな単純なことではないことは必至だ。だが、自分がどんな風に周囲からみられていたのかに、初めて気付く。
多彩な登場人物を絡めて、人情劇ではなく、まるでドキュメンタリーのようなタッチで感情の起伏を極力排してこの小さなドラマを描いていく。地方の寂れた町を舞台にして、そのロケーションを主役にしたような映画を作る。猫も人もこの町の風景の中にしっかりと収まる。猫がかわいい、とか、いう映画ではない。地域猫(飼い主のいない)姿を通して、彼らの存在がその町の人たちを支えている姿を、押しつけがましくはなく、さりげなく描くというこの映画のスタンスがいい。それだけに、ドラマチックになる、後半が惜しい。
まだ若い深川監督は八千草薫主演の『くじけないで』といい、(『60歳のラブレター』まである、)これもまた、実に見事としか、いいようのない映画を作る。老人を主人公にした映画を作らせてもそこにはまるで違和感がない。
それから染谷将太がまた、ここでもいい味を見せることも付記したい。彼はあれだけ主役をこなしながらバイプレイヤーとしても、最高だ。今、若手ナンバーワン俳優だろう。くせのなさが、どんな役を演じても、うまくその世界に溶け込むことを可能にする。しかも、リアルで存在感がある。なかなかそんな役者はいない。
それだけに、映画が後半ただの猫探しに終始するのはもったいない。お話の展開としてはそれでいいのだが、それだけを描きながら、それだけに終わらさない『何か』が欲しかった。それってないものねだりなんかじゃないはずなのだ。