いかにも芥川賞候補になりそうな作品だ。こういうちょっと、とんがった文体を持つ作品は確かに目を引くが、小手先で作ったキワモノと紙一重だ。芥川賞の選考委員のセンセー方は、ここをしっかり見極めなくては結局1作だけの泣かず飛ばずの作家を受賞作家として、作ってしまうことになりかねない。
川上さんは今回残念ながら落選したようだが、この1作では彼女の真価は伝わらない。まだなんとも言い難い。
前半、なんともとっつきにくい。何を描こうとしているのかが、わからないまま、とりあえずページを捲る。主人公のひとり言がだらだら描かれる。やがて、彼女のまだ生まれてくるあてもない赤ちゃんに向けての日記が挿入されていき、その日付けが、バラバラになっているので、とても気味が悪い。それでも読み進めて行く。彼女の情緒不安定がゆっくり、確かに伝わってくる。青木くんに対する思いと、彼が彼女の事を大切にしてくれてないことへの不安。やがて、彼との間に生まれてくるはずの赤ちゃんに対して繰言を言う。そして、怒濤のクライマックス。夜中に彼の部屋に押しかけていく。彼が自分のことを覚えていないと、冷たく突き放す。玄関で突き飛ばされて、階段のフェンスにぶつかり、惨めな姿で起き上がれないでいるのが、痛々しい。彼はただ迷惑そうにするだけだが、部屋にいた彼の恋人らしき女は、彼女に罵詈雑言を吐く。
すべてが、彼女の妄想でしかなく、中学時代のクラスメートを仮想の恋人に見立てていただけだったことがわかる。彼女の言葉にならない孤独が、饒舌な文体で綴られていたことが明確になる。決して攻撃的でも、ましてや内に引きこもっているわけでもない。ただ表面的には静かに普通に生きている女の内面が、1度も歯を磨いたことがないのに、常に健康的な歯を保ち続けて、今まで歯科医に罹ったこともない、普通の人なら誰もがよく知っている痛みすら知らない女の孤独として描かれる。
歯科医でバイトをすることを通して「世界」に触れようとするこの女の、生に対する前向きな姿勢が痛ましいものとして伝わってくる。
川上さんは今回残念ながら落選したようだが、この1作では彼女の真価は伝わらない。まだなんとも言い難い。
前半、なんともとっつきにくい。何を描こうとしているのかが、わからないまま、とりあえずページを捲る。主人公のひとり言がだらだら描かれる。やがて、彼女のまだ生まれてくるあてもない赤ちゃんに向けての日記が挿入されていき、その日付けが、バラバラになっているので、とても気味が悪い。それでも読み進めて行く。彼女の情緒不安定がゆっくり、確かに伝わってくる。青木くんに対する思いと、彼が彼女の事を大切にしてくれてないことへの不安。やがて、彼との間に生まれてくるはずの赤ちゃんに対して繰言を言う。そして、怒濤のクライマックス。夜中に彼の部屋に押しかけていく。彼が自分のことを覚えていないと、冷たく突き放す。玄関で突き飛ばされて、階段のフェンスにぶつかり、惨めな姿で起き上がれないでいるのが、痛々しい。彼はただ迷惑そうにするだけだが、部屋にいた彼の恋人らしき女は、彼女に罵詈雑言を吐く。
すべてが、彼女の妄想でしかなく、中学時代のクラスメートを仮想の恋人に見立てていただけだったことがわかる。彼女の言葉にならない孤独が、饒舌な文体で綴られていたことが明確になる。決して攻撃的でも、ましてや内に引きこもっているわけでもない。ただ表面的には静かに普通に生きている女の内面が、1度も歯を磨いたことがないのに、常に健康的な歯を保ち続けて、今まで歯科医に罹ったこともない、普通の人なら誰もがよく知っている痛みすら知らない女の孤独として描かれる。
歯科医でバイトをすることを通して「世界」に触れようとするこの女の、生に対する前向きな姿勢が痛ましいものとして伝わってくる。