顔に大きな痣があることで、虐められ、学校に行けなくなった少年は、化粧をして隠すことでようやく高校に行けるようになる。クラスメートにばれることを怖れ、教室では存在を隠して、息を潜ませるように生きる。そんな彼が高校2年のある日、夜明け前の新聞配達中、同級生の女の子を見かける。こんな時間に彼女は公園でひとり、煙草を吸っている。これはそんな二人と、その周囲の友人たちのお話。
もう傷つきたくないから、誰ともかかわりあいたくなかった。なのに、彼らはかまってくる。悪気はない。それどころか優しすぎる。そんなクラスメートとの関係を通して、少しずつ変わってくる。お互いの秘密を隠したまま、それ以外のところで付き合う。触れられたくないところには触れない。友だちだからなんでも話すことができる、とか、話すべきだとか、そんなきれいごとは一切言わない。お互いにちゃんと適切な距離を取る。それはもどかしいことかもしれない。だけど、大切なことだろう。土足で踏み込むのは優しさではない。
「第9回ポプラ社小説新人賞<特別賞>を受賞した感動のデビュー作」と紹介記事にはある。ポプラ社の勧める作品は信用できるから、それだけで僕は手に取った。確かにこれは新人賞受賞ではなく特別賞だな、と思う。話は甘いし、展開も単調すぎる。だけど、あえてこういうふうに作ろうとしたのだろう。これはありきたりの展開ではない。試練とか、妥協とかはない。作者にも主人公たちにも。彼らは十分苦しんでいるから、これくらいの救いがあったっていいではないか、と思わされる。これはそんな小さな奇跡の物語。