高校野球にかかわる子供たちの手記。甲子園には出られなかったけど、そこにはさまざまなドラマがある。高校で野球部に所属し、甲子園を目指した数限りない子供たちのお話をいろんな角度から集めた。どのエピソードも読んでいて胸に痛い。
野球だけにかけてきた子供たちの姿、その先にある挫折を後悔するのではなく、野球の後の人生にスポットを当てる。でも、その後の姿を描くのではなく、野球がすべてだった時間を通して、 . . . 本文を読む
今年のウイングカップのトップバッターである。3回目を迎える関西の若手劇団のショーケースとなるウイングカップだが、今年は5劇団が参加する。先日の前夜祭で各作品の予告編を見たが、いずれの作品も個性的でとても興味深く、この11月から12月がとても楽しみだ。
さて、本作だが、2時間15分の大作である。最初は3時間の作品になったらしい。さすがにそれはあんまりなので、カットして、この尺にしたようだ。うま . . . 本文を読む
劇団創立50周年記念作品の第2弾となる作品なのだが、気合を入れまくった前作とは違う。今回は等身大の作品だ。そして、いつものアトリエでの公演となる。もちろん大作だった前作も素敵な作品だったが、どちらかと、言われると今回のような小さな作品のほうが僕は好きだ。先日久しぶりに見た浦山桐郎監督63年作品『キューポラのある街』を彷彿させる。でも、あれよりももっと小さな話だ。
町工場の家族と、その周辺の人 . . . 本文を読む
なんとも不思議なタイトルの映画ではないか。「カエル少年ってなんだ?」 という興味からこの映画に魅かれた。しかも、少年が失踪して、殺されるのである。タイトルがストレートに映画の内容のすべてを説明している。もちろん映画はそのタイトルを裏切ることなくそのままの内容。
5人の少年たちが走っていくシーンから始まる。田舎の素朴な風景の中、赤いマントをひるがえした坊主頭の少年と、その仲間たちが、止まること . . . 本文を読む
この小さな小説のなかで描かれる35歳の女性の今、はなんだかとても身につまされる。世代的にとか、同性として、とかそんな親近感ではない。大体僕は彼女よりずっと年上だし、男だし、まるでそういう意味では共感する糸口はないやん、と言われそうだが、彼女のもう若くはないけど、でも、このまま歳を取っていくのはどうよ、というほんのちょっとした不安のようなものが、なんだかよくわかるような気がしたのだ。
とても中 . . . 本文を読む
久々のクロネンバーグだ。それがなんと文芸映画のルックスを持つ作品なのだ。驚きである。だが、これは正真正銘、彼の映画だ。そこがなんだか嬉しい。でも、なんだか変な気分だ。美しい風景を背景にして、ユングとフロイトを主人公にするドラマが展開する。そこに一人の美しい女性患者が間に入る。2人の男と1人の女によるラブストーリーでもある。だが、よくある三角関係ではない。
ユングとフロイトを主人公にして彼らの . . . 本文を読む
なんて皮肉なタイトルだろうか。結婚して10年。幸せに暮らしてきたはずの夫婦。だが、妻は夫に「好きじゃなくなったから、別れる」と言う。寝耳に水の夫は当然「なぜ?」と問う。他に好きな男が出来たとか、いろんな理由があるのなら、まだ、わかるのだが、そうじゃないらしい。ただ、「もう夫として愛せなくなったから」なんて、そんな漠然としたことを言われても、どうしようもない。本当なら怒ってもいい。だが、彼は冷静に . . . 本文を読む
つかみどころのない話だ。冗談のような状況が提示される。でも、この不思議な世界を受け入れて、さらにはそこで留まる主人公の心情を受け入れる。そうすることで見えてくるものを受け止める。ありえないという判断で切り捨てることで見失うものがある。ありえないことを受け入れるところから見えてくる、ありえるような現実の闇がそこにはしっかりと見える。
ある日突然何の前触れもなくしゃべれなくなる。しばらくそのまま . . . 本文を読む
これまで神原さんの作品で人が死なない作品なんてあっただろうか。これは異色だ。こういうハッピーなものを今の時代にぶつけてくる、その心意気をよしとしたい。曾我廼家五郎の書いた『へちまの花』を原作にして神原さんが自由に脚色したこの作品は確かに従来の神原作品のなかでは異色のものだが、その精神は変わらない。神原さんのいつもの純粋な想いがここにも流れている。それは人を信じる気持ち、愛する想いを貫くことだ。そ . . . 本文を読む
なんとも懐かしい作品だ。高校生の頃、この作品に嵌った。最初は名画座で見て、その後TVで見て、何度となく、上映されるたびに劇場に通い、今まで何度見たことだろうか。せりふの入ったサントラも買って、自宅のステレオ(!)で繰り返し聞いた。完全にこの映画の世界にのめり込んでいた。ジュンとともに、川崎のキューポラのある工場街で生きていた。あの頃の僕は、現実の世界よりも、この映画の世界のほうが自分の生きる世界 . . . 本文を読む
この映画の原題は『ティラノザウルス』という。あまりにイメージが違いすぎるけど、そのままでは日本では伝わらない。でも、ここまで叙情的なタイトルもどうだかなぁ、と思う。映画は結構ハードな内容なのだ。甘いラブストーリーではない。人生に疲れた中年の男女が出会い、お互いの心の傷に塩を塗りつけるようにして、付き合う。優しさではない。でも、傷つけあうのが目的でもない。それよりなにより、もう充分に傷ついている。 . . . 本文を読む
初めて小路さんの小説を読んだのは『東京バンドワゴン』だった。昔懐かしいTVドラマへのオマージュと書かれたこの小説は向田邦子の『寺内貫太郎一家』や、さらに遡り木下恵介アワー(『おやじ太鼓』だったっけ?)とか、ああいう世界。要するに大家族が機能していた時代の名残をとどめた世界を現在に展開する。
その後、今日までに10冊以上の彼の小説を読んできたが、いずれも同じパターンだった。いくらかの変化球はあ . . . 本文を読む
直木賞受賞作品なのだが、辻村深月としては、あまり出来のいい作品ではない。5つの話からなる短編集だ。5人の女たちがそれぞれの岐路に立つ。そこで下した結論が描かれる。いずれも痛ましい。もう少しなんとか出来たのではないか、とも思う。だが、こういう不幸を彼女たちは選ぶ。本人にとっては、これは不幸な選択ではないことなのかもしれない。だが、それは思い上がりでしかない。そんな選択はなしにしてもらいたい。
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今の日本ではなかなか公開されないようになってしまった香港映画界の巨匠アン・ホイ監督の新作である。今回はアンディ・ラウ主演ということもあってようやく日の目を見たのだろうが、これは今年一番の傑作だと断言する。すごい映画だ。
何が凄いか、というと、身寄りのない老人が老人ホームに入って生活する姿を描くのだが、その部分は幾分ドキュメンタリータッチの見せ方をするのに、そこがとても優しい印象を残す。嘘くさ . . . 本文を読む