ラトル指揮/ベルリンフィル「ブラームス 交響曲全集」


 ラトルとベルリンフィルのブラームスの交響曲全集です。ラトルのディスクはバーミンガム市交響楽団時代のものを多く聴いているのでオーケストラが超一流になったとはいえあまり再聴したいとは思わないのですが、ピアノ協奏曲第1番で素晴らしい響きを聴かせてくれたブラームスです。今回はあまり録音のよい印象のないEMIで心配はありましたがとりあえず購入しました。

 第1番の冒頭、弦とティンパニが悠揚なテンポで主題を奏でます。低音は重厚かつフワッと浮き立つような立体的な響きです。ここを聴いただけでブラームス、ベルリンフィルはこうでなくちゃと頷きたくなります。録音もすごくいい。この全集の水準の高さを確信できます。
 所々に激しいアタックのあるラトルの演奏ではなく、ブラームスの演奏はどうあるべきか、ベルリンフィルのブラームスはどうあるべきかを探求した結果、導き出したのかと思える指揮者の個性よりブラームスの原点に帰ったようなスケールが大きくて味わい深い演奏です。
 ライナーノーツのラトルのインタビューにも「ブラームスが言っていることをその通りにやってみること。彼がピアノと書いたら、それは音量を下げるべきで、大きく弾いてはならない、ということです。」とあります。楽譜本位で現代に再現したブラームスです。
 といっても、ラトルらしさが感じられない訳ではありません。第1番の第4楽章、第2番の第4楽章、第4番の第1・第4楽章などフィナーレの盛り上げは構造的かつ激しく表現して興奮させられます。
 どの交響曲も比較的地味に始まり、オーソドックスな演奏かなあと思わせますが、聴き終わると、これはラトルとベルリンフィルだなあと満足できます。 

 第4番を聴きながら後悔したのは、昨年12月に岡山であった演奏会をパスしたことです。ブラームスの第3番・第4番というプログラムだったのですが、こんなに凄い演奏だとは想像しなかったので止めておきました。
 京浜地区にいた時はベルリンフィルとウィーンフィルのチケットはどうしても手に入らなかった(オペラは高すぎて即完売にならないので買う気になれば買えた)のですが、岡山ではチケットが公演直前まで余っていたはずです。しまったなあ。ただ、今、調べるとS席4万円でした。何年前になるか京浜地区にいて発売日に電話をかけていた頃はS席2万8千円とかだったような気がして現在も同じかと思っていましたが4万円ですか。世間の不況、クラシック不況にも関わらずワインなどと同様に超一流だけは不況知らずということでしょうか。私には許容範囲オーバーです。パスしたのはプログラムではなく値段だったかもしれません。

 何度かCDで聴いた後、併せて収録されているライブ映像を見てみました。同じ演奏なので印象が変わらないのは当たり前です。意外だったのは、ベルリンフィルの映像で見慣れていた演奏者が体を大きく動かして全体でうねるように演奏する様子ではなく、普通にというかうねり無しで演奏していることです。この変化の理由はたまたまなのかよく分かりませんが、アバド時代の自主性を尊重しすぎてやりたい放題、鳴らしまくりから指揮者の統率が取れてきた結果なのかもしれません。
 その他では、フルートのパユが相変わらずの美音を奏でているのはもちろんですが、首を傾けて他の奏者の音を慎重に聴きながら演奏しているのが印象に残りました。

 CD3枚にDVD2枚で6000円。この最上の演奏であれば初めてブラームスを購入する方にも推薦できるお得なセットだと思います。


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