クアトロの父に勧められるがままに、チーズを注文する。
チーズに好みのものとか、苦手なものとかがあるかと聞かれる。
成人になった記念にチーズを味わえる大人になりたいと思って注文した。
チーズ初心者に好き嫌いも無いもので、特に好き嫌いはありませんと答えておく。
斜め45度に立っていたクアトロの父の老眼鏡の向こう側の目がキラリと光る。
やがて、美味しそうなチーズの取り合わせが運ばれてくる。
そして、チーズの説明が始まる。
こちらが正面に見えますのが何々で、右手に行きますと何々で、観光バスのような説明が始まる。
この時だけは雄弁なクアトロの父のチーズの説明だが、その内容はよく解らなかった。
青コショウが入った白カビのチーズは、ちょっと大人の雰囲気ですよと云う言葉だけが印象に残る。
そのチーズを口に入れてみた。
濃厚でクリーミーなチーズの風味の後に、爽やかで軽い辛みを持った青コショウがたしかに大人の雰囲気だ。
一口食べてうっとりとしていると、クアトロの父が残念そうな顔をして、こちらを見ている。
チーズと一緒にワインを飲まないのは成人にあるまじき行いだと訴えているのだろう。
その顔色を察してこのチーズ合うワインを選んで下さいと云ってみる。
クアトロの父がそれでこそ立派な大人だと云う顔をしている。
クアトロの父が持ってきたワインはアルザスのリースリングだ。
青コショウのチーズはドイツ産だからドイツ文化圏のアルザスのリースリングが良いと云う。
しかし、リースリングでもしっかりとした大人向けの辛口のものだと云う。
青コショウのチーズに辛口のリースリング、たしかに大人の世界のようだ。
してやったりのクアトロの父の顔が憎い。